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狂犬病の侵入の可能性,病態の特徴,診断,患者発生時の対応【清浄国でも油断は禁物。ヒト対策と動物対策を並列させた“One Health”の実現が望まれる】

No.4890 (2018年01月13日発行) P.60

好井健太朗 (北海道大学大学院獣医学研究院 公衆衛生学教室准教授)

井上 智 (国立感染症研究所獣医科学部第二室長)

登録日: 2018-01-14

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  • わが国では狂犬病の国内発生がなくなって久しいものの,世界的には狂犬病の流行は公衆衛生上,大きな問題になっています。この感染症の疫学およびわが国への侵入の可能性,病態の特徴や診断,患者発生時の対応について,国立感染症研究所・井上 智先生にご教示をお願いします。

    【質問者】

    好井健太朗 北海道大学大学院獣医学研究院 公衆衛生学教室准教授


    【回答】

    狂犬病は典型的な人獣共通感染症(zoonosis:動物由来感染症)です。海外では毎年5万5000人以上が狂犬病を発症して死亡しています。狂犬病の流行していない国はわが国やニュージーランド等の島嶼国を含めた数カ国であり,アジアはアフリカとともに狂犬病発生数が最多の流行地域です1)

    ヒトも動物も通常1~3カ月の潜伏期を経て発症し,急性,進行性,致死性の脳炎を併発して10日以内に死亡します。潜伏期間にウイルスの検出は不可能で,特異な抗体の産生もありません。幸いに,感染が疑われた直後に曝露後予防接種(post-exposure prophylaxis:PEP)を開始すれば発症を防ぐことができます。唾液中に排出されたウイルスが咬傷等によって傷口や粘膜組織等を介して直接神経組織に侵入することで感染が成立します。狂犬病発生地で動物に咬まれるなどして狂犬病ウイルスの感染が疑われた場合は,速やかなPEPによって発症(=死亡)を阻止します。通常の生活では「ヒト─ヒト感染」はまずありませんが,患者が狂犬病と診断された場合には,濃厚に接触した家族や医師・看護師等に対する速やかなPEPが必要となります2)

    患者や家族への問診では,発生国でイヌ等の動物に咬まれたかを確認することが大切です。確定診断は唾液や項部生検組織中のウイルス遺伝子や抗原の検出およびウイルス分離によって行います2)。現在,実験室内診断は地方衛生研究所で可能です。

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