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(3)トラベルクリニックとの連携の重要性─渡航先ではなく,「何をするのか」で決まるワクチン選定 [特集:渡航者ワクチンの現状と課題]

No.4789 (2016年02月06日発行) P.34

三島伸介 (りんくう総合医療センター総合内科・感染症内科医長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 日本から海外への渡航者数は年間1500万人を超えている

    海外渡航者は,それぞれに多種多様な目的を持って,様々な国・地域へ渡航する

    同一国・地域への渡航であったとしても,滞在地や活動内容によって必要となる渡航者ワクチンの内容は異なってくる

    トラベルクリニックの重要な職務として,渡航者ごとに最適な渡航者ワクチンをそれぞれの状況に応じて適宜選定することが挙げられる

    トラベルクリニック業務の肝は,詳細かつ緻密な問診である

    1. トラベルクリニック,渡航医学の専門家とは

    交通機関や通信ネットワークの発達などに伴って海外へのアクセスがますます容易となってきており,この10年間の日本人出国者数は毎年1500万人以上を連続して記録し,2014年は1690万人を超えた1)。個人で利用できる情報端末(スマートフォン,タブレットなど)の機能および利便性が増大し,世界各地の様々な情報を容易に入手できるようになっていることも手伝って,未知や未開の地域に踏み込んでみたいという個々人の冒険心がくすぐられるといった影響も多少はあるのか,以前は到達困難であったような国や地域にも,個人レベルで渡航可能となってきているのが現状である。したがって,医療機関側としてはこのような状況をしっかり意識しておく必要があり,渡航歴のある受診者が関わったと想定される諸外国のいろいろな地理・気候条件,食文化,風土病,感染症分布状況などについて十分に考慮しながら診療を進めていくことが重要となる。
    一般外来において発熱は,日常的に遭遇するありふれた主訴の1つであろうが,受診者の背景に前述したような外国での疾病状況や風俗・習慣などとの関連をも考慮しなければならない状況がある場合,これは渡航医学に特化した専門家の守備範囲として対応していくべきケースである。海外の現地の状況を理解するためには,現地に足を運んで当該国民と直に接し,現地の食事を摂り,現地の寝床で睡眠をとるといった“現地の空気”を身をもって体験していることが非常に重要であり,こうした経験を持つ医師が渡航医学の専門家となることが望まれる。渡航医学の専門家が渡航に関連した医療相談を受ける医療機関がトラベルクリニックである。
    トラベルクリニックの業務は,渡航前の医療相談(pre-travel consultation)と帰国後の医療相談(post-travel consultation)にわけられる2)。たとえば一口に発熱患者と言っても,マラリアによる発熱だった場合,治療のタイミングが遅れることで致死的となるケースが起こりうる。マラリアの初発症状の1つとして発熱があるが,マラリア非流行地域における医療従事者にとって,発熱患者を診た場合に鑑別診断として必ずしもマラリアが想定されるとは限らない現状がある。このような潜在性リスクを有する受診者がいつ訪れるかわからない状況で日常診療が行われている一般内科・小児科などの診療所も,こうしたケースを想定してトラベルクリニックとの診診連携を円滑に行っていける体制づくりを整えておくことが重要である。
    また,海外で流行している感染症の中には「ワクチンで予防可能な疾患」(vaccine-preventable diseases:VPD)もあり,必要に応じてワクチン接種を行うこともトラベルクリニックの大切な役割である。日本国内で一般的に流通しているワクチンだけではなく,海外でしか流通していないワクチンについても,必要に応じて輸入し,トラベルクリニックの各受診者に対して個別に必要と思われるワクチンをきめ細かに選定する。トラベルクリニック業務の主要な柱の1つであるワクチン選定について,次項から解説を行う。

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