大気中には粒子状,ガス状の様々な汚染物質が存在しており,ヒトに短期的および長期的な影響を及ぼす
粒子状物質の中で粒径が2.5μm以下のものは微小粒子状物質(PM2.5)と呼ばれ,吸入されると細気管支や肺胞レベルまで到達しやすく,特に健康影響が懸念される
大気中PM2.5への短期的曝露によって喘息患者のピークフロー値低下や喘鳴症状の出現が生じ,長期的曝露では喘息発症リスクの上昇が認められている
自動車交通に由来する大気汚染は,喘息の発症や症状の増悪と関連している
喘息およびアレルギー疾患の有病率は世界的に増加傾向にあり,大気汚染をはじめとする環境因子との関連が指摘されている1)。大気中には,大きさや成分が異なる様々な粒子状物質(particulate matter:PM),オゾン(ozone:O3),二酸化窒素(nitrogen dioxide:NO2),二酸化硫黄(sulfur dioxide:SO2)など,多くの汚染物質が存在している2)。こうした大気汚染物質は,発電所や工場における石炭や石油の燃焼,自動車排気ガスなどの人為的起源のものだけでなく,火山の噴火,中国大陸から飛来する黄砂など,自然起源のものも含まれる。
ヒトが呼吸によって大気汚染物質を吸入すると,呼吸器系・循環器系をはじめ,様々な健康影響が生じるが,短期曝露による急性影響と長期曝露による慢性影響に大別される(表1)2)3)。本稿では,主な大気汚染物質がヒトの呼吸器およびアレルギー疾患に与える影響に関する疫学的知見を中心に紹介する。
大気汚染物質のうちPM,NO2 ,O3 は気道に酸化的障害を与え,気道炎症,リモデリング,過敏性などを引き起こす1) 。そのため,短期的には喘息患者に対して症状の増悪や肺機能の低下をもたらし,長期的には遺伝的にアトピー素因を有するヒトにおける喘息の新規発症の危険因子となる。
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