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(1)剤形から見た治療の工夫[特集:高齢者の薬物治療における効果と有害事象]

No.4864 (2017年07月15日発行) P.28

溝神文博 (国立長寿医療研究センター薬剤部)

登録日: 2017-07-14

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  • 高齢者の薬物有害事象は非定型的な症状が多く,原因薬物を特定できない場合が多い

    薬物有害事象の多くは回避可能なものが多い

    薬物有害事象は,その原因を特定し対処することが大切である

    1. 高齢者における薬物有害事象発現の特徴

    薬物有害事象とは,「薬物を投与した際に生じるあらゆる好ましくない医療上の出来事」と定義されている。高齢者は若年者と比べて原因薬物を特定できない場合が多く,定型的な症状(副作用)より非定型的な症状の発現が多い。また,発現までに時間がかかる場合や,長期間服用していた薬物でも突如として発現する場合がある。投与を中止した後に発現することもあり,高齢者の薬物有害事象を発見することは非常に難しい。このため,新たな症状が発現した場合には,まず薬物有害事象を疑う必要がある。

    薬物有害事象を新たな疾患や症状と勘違いして,さらに薬物を処方してしまうことを「処方カスケード」と言う。薬物有害事象に対処するため処方カスケードに陥り,ポリファーマシーの状態となっている高齢者もしばしば見受けられる。

    これらの問題に対して本稿では,高齢者の薬物有害事象の未然回避や発見のためのポイント,対処方法などについて,剤形から見た工夫を交えながら概説したい。

    2. 高齢者と薬物有害事象

    高齢者は加齢とともに疾患が増加し,治療薬が増えるため,若年者と比べ服薬する機会が多い1)。服用薬剤数と薬物有害事象には密接な関連がある2)。東京大学医学部附属病院老年病科の調査研究(1995~1998年)において,特に75歳以上での薬物有害事象の発現率は15%に達すると報告されている3)。薬物有害事象の症状としては中枢神経系,電解質異常,消化器症状が70%以上を占め4),特に重篤な薬物有害事象は全体の約27%で,多くは予防可能なものである。原因としては,薬学的管理〔薬剤師の包括的な介入(薬識の確認,残薬の確認,薬歴管理,薬物相互作用の確認,処方設計など)〕の不足61%,処方の誤り58%,服薬ノンアドヒアランス21%であった5)。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の「薬剤師の役割」の項にあるCQ1「薬物有害事象を回避するために,薬剤師はどのように関与するのが有効か」に対する回答では,「薬物有害事象の多くは,過量および過少投与,相互作用,薬物治療のノンアドヒアランスが原因であることが多く,薬学的管理の実施により,未然回避,重篤化の回避が可能となる」としている6)

    薬物有害事象の要因は多種多様であることから,薬剤師が積極的に介入してその原因を把握し,問題ごとに対処する必要がある。薬物有害事象が発現する要因として,①薬物自体の要因〔副作用,薬物相互作用,ポリファーマシー,潜在的に不適切な薬物(potentially inappropriate medications:PIMs)の影響〕,②身体機能の要因[生理機能の低下〔薬物動態の吸収・分布・代謝・排泄(absorption・distribution・metabolism・excretion:ADME)の変化〕,日常生活動作(activities of daily living:ADL)の低下(視力,聴力,手指の機能障害など),嚥下機能・認知機能の低下],③人的要因(medication error,過小医療,介護者の問題),などが考えられる。

    薬物有害事象はこれらの要因が複数重なって発生することが多く,発症機序も複雑であるため,総合的に判断する必要がある。

    残り4,332文字あります

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