がん診療と妊孕性温存の両立をめざす「oncofertility(がん・生殖医療)」の重要性が広く認識されつつあり,卵子や卵巣の凍結保存は,重要な妊孕性温存技術の1つである
卵子凍結保存では既に数千例の出産が得られているが,がん・生殖医療によるものはいまだ少数にすぎない
卵巣組織凍結保存でも緩慢凍結法やガラス化凍結法によって既に35人以上の生児が得られているが,移植後の生着率の改善や移植卵巣に残存する微小残存病変の検出など解決すべき問題も多い
がん診療と妊孕性温存の両立をめざす「oncofertility(がん・生殖医療)」の一環として,思春期以降の未婚女性では,未受精卵子の採卵・凍結保存が一部の施設で施行されている。しかしながら,卵子の凍結保存には排卵誘発剤による卵巣刺激がほぼ必須であり,これにより悪性腫瘍の治療が遅れることが懸念され,多くても20個程度の卵子しか得られないことが問題である。
一方,卵巣組織凍結保存は,低侵襲な腹腔鏡下手術を用いて比較的早期に検体が採取できるとともに,思春期以前の女児においても施行可能である。さらに,卵巣皮質に何千という卵母細胞を含むため,凍結・融解・移植などによる損傷を考慮しても,得られる卵子の数,妊娠率が飛躍的に高くなることが期待できる。最近では,摘出された卵巣組織内の未成熟卵子を採取し,体外成熟培養後に凍結保存する方法1) ,凍結保存された卵巣組織から卵子幹細胞を分離する方法2) 3) も試みられている。また,卵巣癌症例の摘出卵巣から採取した未成熟卵子の体外成熟培養および顕微授精によって得られた受精卵を凍結保存し,化学療法後に温存した子宮に移植して生児が得られている4)。
以上のように,若年の女性がん患者の妊孕性温存には種々の方法があるが(図1)5),現状ではそれぞれに一長一短があるため(表1)6),個々の症例ごとに複数の方法を組み合わせて対応することが望ましいと考えられている(図2)7)。一側の卵巣の半分を採取して凍結保存し,その直後に排卵誘発による採卵および卵子凍結を施行したところ,卵子の数や質は同等であったとの報告もある8)。
なお,卵子・卵巣凍結より簡便な妊孕性温存法として,化学療法に対する卵巣保護作用を期待してGnRHアナログ製剤による偽閉経療法も従来行われてきた(図2)7)。卵巣機能や妊孕性に有意な改善効果を認めたという2014年の報告9)もあるが,いまだ一定の知見は得られておらず,さらなる検討を要する。
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