冠動脈疾患(CAD)合併高血圧においては,まず第一の降圧目標として140/90mmHg未満を達成する
多くのCADは,糖尿病,慢性腎臓病(CKD),リスク因子重複や多血管疾患(poly-vascular disease),抗血栓薬服用など高リスク群であるため,心筋虚血や脳・腎の虚血症状・所見に注意しながら,最終的には130/80mmHg未満をめざす
拡張期血圧(DBP)低値は,心血管イベントの直接の原因ではなく,高リスク群のマーカーととらえられる
低DBP患者の降圧治療においては,DBP低下をいたずらに恐れるより,適切な収縮期血圧(SBP)レベルへの降圧を注意深く図るとともに,心筋虚血のスクリーニング・治療,心機能低下・動脈硬化・危険因子・併存疾患の治療が重要である
冠動脈疾患(coronary artery disease:CAD)の一次予防としての血圧値は,“The lower, the better”である。大規模な前向き疫学研究のメタ解析によれば,CAD患者の死亡リスクは,収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)115mmHg,拡張期血圧(diastolic blood pressure:DBP)70mmHg以上において,血圧が高いほど指数関数的に増大する1)。
日本人における急性心筋梗塞発症率は,SBP 120mmHg未満で最も小さく,血圧レベルが上昇するにつれて増加する2)。一方,降圧薬治療と心血管イベントに関するBPLTCCメタ解析では,降圧薬の種類にかかわらずSBPの降圧度が大きいほど,CAD,心血管死亡が減少した3)。
CADを対象としたプラセボ対照ランダム化試験(randomized controlled trial:RCT)(EUROPA試験,ACTION試験,CAMELOT試験)では,より厳格な降圧(SBP 140mmHg台から130mmHg台,130mmHg台から120mmHg台)がCADの再発を減少させた(図1a)4)~6)。CADのサロゲートマーカーである冠動脈プラーク容積への降圧の影響を評価したCAMELOT試験のサブ解析であるNORMALISE試験においては,SBP 130mmHg未満でプラーク容積増大が抑制され,120mmHg未満ではプラークが退縮した(図1b)7)。
CAD患者6万6504例のメタ解析では,SBP 140mmHg未満への標準降圧群と比較して,SBP 135mmHg未満への降圧群では,心不全を15%,脳卒中を10%減少し,130mmHg未満への降圧群では,心不全を27%,脳卒中を17%,さらに心筋梗塞と狭心症をそれぞれ8%抑制した(表1)8)。CADにおける総死亡・心血管死亡抑制のRCTによるエビデンスは十分ではないが,CADの二次予防はもとより,わが国で重要性が増す心不全や脳卒中の予防の観点からも,より厳格な降圧をめざす130mmHg未満が望ましい。
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