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(3)多剤耐性菌の院内感染対策の実際 [特集:多剤耐性菌を巡る諸問題]

No.4703 (2014年06月14日発行) P.38

吉澤定子 (東邦大学医療センター大森病院感染管理部副部長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-30

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  • 耐性菌対策においては,早期発見・対応,情報共有,日常的な標準予防策の実践,抗菌薬適正使用の5つが重要である

    本邦で検出される耐性菌は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),多剤耐性緑膿菌(MDRP),バンコマイシン耐性腸球菌(VRE),多剤耐性アシネトバクター(MDRA)の頻度が高い

    アウトブレイクの判断,行政への報告基準を施設内で決めておく

    1. 感染防止対策の現況

    2014年4月30日,世界保健機関(WHO)は抗菌薬が効かない多剤耐性菌が世界各地で拡大していることを示した報告書を発表し,フクダ事務局長補は会見で「きわめて深刻な状況である」と強調した。欧米ではカルバペネム耐性腸内細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)が蔓延しているが,本邦ではまだ検出は少ない。しかし,本邦でのアウトブレイクの報告もあり,その脅威は現実のものになりつつある。
    抗菌薬が開発されればそれに対する耐性菌が検出されるようになるのはやむをえない状況ではあるが,医療関連感染が惹起されると治療が難渋し,患者予後にも影響を及ぼすことがある。ある報告では,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)非感染例では平均在院日数が14日程度であるのに対し,感染例では88日に延長するとされ,国民衛生の動向から算出したMRSAにおいて余分にかかる診療費は年間約2360億円と見積もられている1)。医療経済的負担も生じ,さらに社会的制裁を受けることがあるため,ほとんどの医療施設で感染防止対策に力を入れている。
    このような昨今の院内感染を取り巻く現状を鑑み,2010年の診療報酬改定では「感染防止対策加算」が新たに導入された。これは専門的な感染症の知識を有する医療関係職種から構成されるチームによる病棟回診やサーベイランス,抗菌薬適正使用の推進などの感染防止対策の取り組みを行うことで,入院初日に患者当たり100点の報酬を受けるシステムである。感染対策に対する加算が整う一方,11年2月に厚生労働省より「院内感染対策中央会議提言」が発表され,6月17日に医政局から各医療機関に通知された2) 。これは通常時と院内感染発生時における院内感染対策を,各医療機関内,医療機関間の連携,行政の関わりという観点からとりまとめたものとなっており,アウトブレイクが疑われる際の行政への早期報告の重要性が明記されている。
    本稿では,当院における院内感染対策への取り組みを紹介しつつ,多剤耐性菌院内感染対策の要点について概説する。

    2. 院内感染対策で問題となる主な多剤耐性菌

    2013年,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は「抗菌薬耐性の脅威(Antibiotic Resistance Threats)」と称し,主要耐性菌を「緊急・重要・注意」の3段階に分類し,実践すべき対策を発信している(表1)3)
    欧米で「緊急」とされているCREや,アジアでも問題となっている多剤耐性アシネトバクター(multiple drug-resistant Acinetobacter : MDRA)は本邦ではほとんど検出されないなど,欧米と本邦では流行している耐性菌の背景が若干異なることがある。しかしながら,交通の利便化に伴い瞬時に水面下で蔓延が起こることも考えられ,治療が困難であることを考慮すると本邦における蔓延を防ぐための水際対策は重要である。
    本邦における耐性菌検出状況としては,2012年の厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の報告による全提出検体数における検出率はMRSAが8.06%と最も多く,多剤耐性緑膿菌(multiple drug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)0.14%, バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus:VRE)0.02%,MDRA0.01%とされている。同報告では耐性菌が分離された医療機関の割合として,MRSAは集計対象となった660の医療機関すべてから分離が報告され,MDRPは半数以上の53.2%から報告があったが,VREは10.8%,MDRAは4.4%のみの報告で,本邦では比較的検出が少ないことがうかがわれる4)
    一方,カルバペネム系抗菌薬以外のほとんどのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示す基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase:ESBL)産生が疑われる大腸菌の分離率は約10%程度で,市中感染として検出される場合も多く,注意が必要である。

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