甲状腺疾患は女性に高頻度に認め,好発年齢が生殖年齢と重なる。甲状腺疾患は月経異常などを認め,生殖年齢女性のホルモン周期と密接に関わる。甲状腺疾患に伴う妊娠が流産・早産などと関与する報告は散見されるが,妊娠前の甲状腺機能異常とその後の妊娠の関係は明らかでなかった。
最近,顕性甲状腺機能低下症のみならず,甲状腺ホルモンが正常で甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値の潜在性甲状腺機能低下症や,甲状腺に対する抗体を認める症例でも,不妊症や初期流産が関与することが報告された(文献1)。TSHは卵巣機能とも密接に関与し(文献2),さらには妊娠前にTSH高値の女性から出生した児のIQレベルの低下を認めたことが報告され(文献3),妊娠前の甲状腺機能のコントロールが重視されている。潜在性甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン製剤のレボチロキシンの投与は,体外受精での着床率の上昇と流産率の低下に寄与することもわかっている(文献4)。
これらより,米国内分泌学会は推奨妊娠前TSH値を従来の4.0μIU/mL未満から2.5μIU/mL未満まで引き下げ,今後わが国でも妊娠前の甲状腺機能のコントロールは必須となる可能性がある(文献5)。
1) van den Boogaard E, et al:Hum Reprod Update. 2011;17(5):605-19.
2) Kuroda K, et al:J Assist Reprod Genet. 2015;32(2):243-7.
3) Haddow JE, et al:N Engl J Med. 1999;341(8):549-55.
4) Velkeniers B, et al:Hum Reprod Update. 2013;19(3):251-8.
5) De Groot L, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2012;97(8):2543-65.