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胸膜癒着療法の肺移植への影響

No.4777 (2015年11月14日発行) P.58

奥村明之進 (大阪大学大学院医学系研究科呼吸器外科学 教授)

登録日: 2015-11-14

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

臓器移植法の改正により肺移植例が増加しています。慢性呼吸不全の肺疾患患者はしばしば気胸を起こし,胸膜癒着療法が行われているのが現状だと思います。タルクも認可され,多用されることが予想されます。広範囲で高度な胸膜癒着がある肺移植では,手術時間も長く出血量も増えることが危惧されます。実際の肺移植における胸膜癒着療法の影響をどのように考えておられるか,大阪大学・奥村明之進先生のご教示をお願いします。
【質問者】
栗原正利:日産厚生会玉川病院気胸研究センター長

【A】

「日本肺および心肺移植研究会」によるわが国の肺移植のレジストリーでは,2014年までに計405例の肺移植が実施されており,5年生存率は72%です。
肺移植の適応となる肺疾患は多様で,胸膜癒着が伴う疾患も移植適応になっています。気管支拡張症などの慢性感染症,慢性血栓塞栓性肺高血圧症などは,胸膜癒着を伴うことが多くあります。これらの疾患に対する肺移植においては,両肺移植が適応となります。両肺移植は通常,clamshell切開による両側開胸で行われますが,背側の癒着の剥離が困難であることが問題となります。
筆者らの施設ではこれまで50例の肺移植症例のうち,慢性血栓塞栓性肺高血圧症と好酸球性肉芽腫症の2例において,強固な胸膜癒着の剥離面からの出血の制御に難渋し,最終的に在院死となりました。これらの症例においては,肺高血圧のため循環管理に人工心肺が必要となり,全身ヘパリン化が止血をさらに困難にしたことも,制御不能の出血の要因と考えられます。胸膜癒着を伴う症例での体外循環装置使用下の両肺移植には,癒着剥離に伴う出血のリスクがきわめて高いことを念頭に置かなければなりません。
わが国ではリンパ脈管筋腫症(lymphangio-leiomyomatosis:LAM)の移植適応患者が多く,実際,わが国の肺移植のレジストリーによれば,405例の肺移植のうち,LAMは72例(18%)でした。筆者らの施設では13例のLAMに対する肺移植を施行し,そのうちの2例で胸膜癒着療法後の強固な癒着がありました。これらの症例は後側方切開による片肺移植ですが,癒着剥離により術中の大量出血をきたしました。胸膜癒着療法は他院で行われていたため,使用された薬剤などの詳細は不明です。
これらの経験をもとに,現在,筆者らの施設では,LAMによる難治性気胸に対しては胸膜癒着剤の胸腔内注入はなるべく避けて,ガーゼ型の再生酸化セルロースとフィブリン糊によるtotal pleural coverage術 (栗原正利先生による)を行っています。この方法では,壁側胸膜との癒着ができても,線維素性の比較的弱い癒着しか起こらないことを臨床例でも経験しています。
肺移植を前提にLAM患者を診療する際には,安易な胸膜癒着療法は行わず,胸膜癒着の起こらない治療を考慮すべきと考えます。

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