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肝癌に対する定位放射線治療の適応と注意点

No.4772 (2015年10月10日発行) P.55

武田篤也 (大船中央病院放射線治療センター長)

登録日: 2015-10-10

最終更新日: 2016-11-10

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【Q】

定位放射線治療は肺癌のみならず肝癌に対しても適応が拡大してきました。各国のガイドラインには記載されていませんが,文献的には良好な成績が報告されています。
肝癌に対する定位放射線治療の適応の現況と注意点について,世界におけるパイオニアである大船中央病院・武田篤也先生のご教示をお願いします。
【質問者】
萬 篤憲:東京医療センター放射線科医長

【A】

体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiotherapy:SBRT)は,体幹部腫瘍を対象とした,いわゆる「ピンポイントの放射線治療」と呼ばれている治療法です。今日のコンピュータ技術やテクノロジーの進歩により,標的腫瘍に対して正確に高線量を照射しつつ,周囲正常臓器の線量を急峻に低下させることが可能になりました。これにより,高い局所制御率と低い障害頻度の両立が可能となっています(図1)。
肝癌に対するSBRTでは,最近,良好な成績が複数報告されています。しかし,それらの報告はほとんど後顧的研究による結果ですので,いまだエビデンスレベルは低く,今後前向き試験における検証が必要です。本稿では,肝癌に対するSBRTの適応について,現在の標準治療と照らし合わせ,SBRTの果たすべき役割について記します。
わが国において,早期肝癌に対する標準治療は手術とラジオ波焼灼術(以下,ラジオ波)が双璧となっています。しかし,いずれの治療法にも特性があり,治療適応としにくい場合があります。手術では,予測残肝機能が保てなかったり,腫瘍の解剖学的位置により広範囲切除が予想されたりする場合には,しばしば適応外となります。ラジオ波でも,横隔膜直下に存在する肝癌は超音波では見えにくく施行困難ですし,腫瘍が血管や胆管に近接する場合は障害を起こすリスクが高かったり,逆にそれを恐れて十分に焼灼できずに再発させたりすることもあります。
SBRTは,そのように標準治療を施行することが困難な肝癌患者を対象としています。SBRTの特徴のひとつは,手術やラジオ波に匹敵する90%を超える高い局所制御率です。また,血管,胆管の障害が少ないため,それらに近接もしくは浸潤した肝癌でも治療可能で,横隔膜直下に存在する腫瘍も治療可能です。しかも治療は無痛・無血で,合併症を有する患者や高齢者にも負担の少ない治療です。
2つの標準治療が適応とならない肝癌では,肝動脈塞栓術が推奨されています。しかし,治療効果は肝癌の血流動態に大きく依存しており,超選択的方法によって十分に塞栓可能であった肝癌でも局所制御率は82%,全体では65%であり,標準治療やSBRTと比較して治療効果は劣ります。そのため,SBRTは肝動脈塞栓術より推奨される可能性があります。
SBRTは標準治療と同等の局所制御率を示し,かつ弱点を補強する治療です。現在,わが国にて「初発孤立性肝細胞癌に対する体幹部定位放射線治療の有効性に関する多施設共同試験」が開始されています。このような臨床試験により,SBRTの有用性を実証し,SBRTが肝癌における標準治療のひとつとしての位置づけを確立することが望まれます。

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