ここ10年間ほど高血圧治療の世界を席巻したARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は,昨今,相次いで特許切れという問題に直面し,ジェネリック医薬品に置き換えられようとしている。口腔内溶解錠,徐放錠,配合錠など手を替えてみたが,特許切れは避けて通れない。
そこで先を見越して,同じARBに属していながら,より強力であることを謳って特許切れに対抗しようとする製薬企業が現れた。
武田薬品の新しいARBであるアジルサルタン(アジルバR)がそれであり,20mg,40mgが2012年4月に薬価収載となった7番目のARBである。2015年に従来品カンデサルタン(ブロプレスR)の特許切れと入れ替わりに,10mg錠がまさにタイムリーに発売された。アジルサルタンは,カンデサルタンのテトラゾール基をオキサジアゾール基に変えただけで数倍の強さに変身したスーパーARBである,と企業広告に謳い,大々的に宣伝した。
武田薬品のホームページにおける,2012年1月18日のニュースリリースでは,以下のように記載している。
「国内で実施した4つの臨床第3相試験のうち,ブロプレスR錠(一般名:カンデサルタン シレキセチル,以下ブロプレスR)を対照とした多施設二重盲検比較試験では,Ⅰ度またはⅡ度(軽~中等症)の高血圧症患者636例を対象にアジルバRの有効性および安全性を検討しており,その結果,アジルバRは,坐位拡張期血圧の評価において,ブロプレスRよりも統計学的に有意に高い降圧効果を示すとともに,24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)による評価において,24時間・昼間・夜間平均血圧,さらには早朝血圧についても統計学的に有意に高い効果を示した。また,安全性・忍容性についてはブロプレスRと同等であった」1)。
また他社のARBとの比較も宣伝に用いている。武田薬品による支援を受け,アジルサルタンとオルメサルタンの24時間血圧の降圧度を比較した2つの海外論文2)3)では,アジルサルタン80mgはオルメサルタン40mgよりも収縮期血圧(SBP)の24時間降圧効果が11.7mmHg有意に高いと報告している。しかし,わが国ではオルメサルタンは1日40mgまで使用が認められているが,アジルサルタンは40mgが上限であり,80mg使用は認められておらず,参考にならない。わが国の宣伝資材としては不適切である。
一方,ARBとカルシウム拮抗薬との心血管合併症予防効果を比較した大規模臨床試験としては,バルサルタンとアムロジピンのVALUE試験4),カンデサルタンとアムロジピンを比較したCASE-J試験5)などが知られている。いずれも一次エンドポイントは両治療群で有意な差は認められなかった。しかし,VALUE試験では二次エンドポイントである心筋梗塞がバルサルタン群で有意に高く,また脳卒中もバルサルタン群で高い傾向が認められた。これは,試験開始6カ月の降圧薬調整期間における降圧度に関して,アムロジピン群のほうが優れていたためと考えられる。また,CASE-J試験では,カンデサルタン群で併用降圧薬の数が有意に多いにもかかわらず,アムロジピン群の降圧度に達することができなかった。
武田薬品がカンデサルタンより強力と謳うアジルサルタンでは,はたしてアムロジピンと同様あるいはそれ以上の降圧効果を期待できるのであろうか。これまでARBに関する大規模臨床試験が多数行われているが,そのほとんどは降圧利尿薬の併用がなされており,一見,対照群と降圧効果に差がないようであった。
それでは,お互いに併用薬なしで,head-to-headで対決した場合,どちらの降圧効果が強いのであろうか。
そこで,苅尾グループから発表されたのが,ACS1(Azilsartan Circadian and Sleep Pressure─the 1st Study)試験6)である。その概要を別枠に示す。
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