誤嚥性肺炎は,日常生活動作や全身機能の低下,特に脳血管障害を有する場合に認められやすい嚥下機能障害を背景に起こる肺炎で,高齢者の食事摂取に関連して発症する。コロナ禍では,オミクロン株による感染症は軽度であったが,高齢者入所施設において誤嚥性肺炎が増加した。
誤嚥性肺炎の病態・リスクは,医療・介護関連肺炎における基礎病態あるいは併存疾患(高齢,中枢神経疾患,日常生活動作低下,経管栄養管理など)と同一である。これら誤嚥のリスクを有する高齢者が意識状態の低下や発熱をきたし,胸部CTで下肺野を中心に気管支肺炎,特に背側にconsolidationを認め,かつ嚥下機能の低下が確認された場合に本症と診断する。
誤嚥性肺炎は繰り返すことを特徴とする。このため,治療よりも予防が優先される。誤嚥性肺炎の発症機序は,大脳基底核の不顕性脳梗塞によってドパミン作動性神経の機能低下を生じ,これに連なる迷走神経知覚枝の機能が低下するため,咽頭や気管支粘膜の刺激を受けた迷走神経知覚枝からサブスタンスPの遊離・放出が減少する。生体防御機構の活性化による高齢者肺炎の予防には,サブスタンスP濃度を高めて嚥下反射・咳反射を正常化する作用が要求される。さらに,口腔ケアや腸管蠕動運動の改善,栄養状態の向上,ワクチン,嚥下リハビリテーションなどの総合戦略が重要であることは論をまたない。しかし,意思の疎通が困難な寝たきりの患者に対し,上述の手法を用いても限界があり,これらの戦略に加え新しい試みが必要である。
抗菌薬の選択に際しては,原因微生物,原因微生物の薬剤耐性状況,組織移行性を考慮する必要がある。誤嚥性肺炎では口腔内の連鎖球菌や嫌気性菌の関与があるため,これらに効果のある抗菌薬を選択する。
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