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赤痢アメーバ症[私の治療]

No.5209 (2024年02月24日発行) P.47

川島 亮 (国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター)

渡辺恒二 (国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター専門外来医長)

登録日: 2024-02-23

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  • 赤痢アメーバ症(アメーバ赤痢)は,腸管原虫赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)による寄生虫症である。感染者の糞便中に含まれるシスト(囊子)を介して糞口感染で伝播する。従前は,上下水道設備が整っていない発展途上国で感染拡大がみられ,先進国では輸入感染症と考えられていたが,2000年以後のわが国の疫学では,発症者のうち,輸入感染症は1~2割程度にとどまる。残りの8割は性感染症と考えられ,男性同性間性的接触(MSM)や性風俗でのoral-anal sexual contactによる感染伝播が主因となっている。以上,流行地への渡航歴の有無に限らず,赤痢アメーバ症は腸管感染や肝膿瘍の重要な鑑別疾患となる。

    ▶診断のポイント

    赤痢アメーバ症の臨床像は多彩である。潰瘍性大腸炎と鑑別が難しい大腸炎,発熱以外の症状に乏しく熱源精査で見つかる肝膿瘍,原因の特定できない大腸穿孔,術後に縫合不全や腸管穿孔を繰り返す虫垂炎では本疾患を疑う。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    確定診断後に治療を開始することが理想的だが,わが国では保険診療内で実施可能な検査が限られている。患者背景や臨床症状から本疾患が強く疑われる場合,ニトロイミダゾール系薬剤(メトロニダゾールまたはチニダゾール)による経験的治療を行う。赤痢アメーバ症の場合,治療開始後3~5日以内に臨床症状の改善が得られる。無効の場合,他疾患の鑑別を進める。

    有症状の患者(侵襲性アメーバ赤痢)には,ニトロイミダゾール系薬剤の投与後,残存シストに対する治療としてパロモマイシンによる後療法を行う。一方,無症候性キャリアにはニトロイミダゾール系薬剤の投与は不要で,パロモマイシンによる治療のみ行う。

    アメーバ性肝膿瘍は切迫破裂を除き,治療目的での膿瘍穿刺・ドレナージは不要である。また,有効な治療後でも,画像上の占拠性病変は数カ月~数年にわたり残存するため,画像での治療効果判定や治療期間延長は通常不要である。一方,発熱などの臨床症状が治療後も改善しない場合,細菌性肝膿瘍の除外目的で膿瘍穿刺・細菌培養検査を検討する。

    大腸穿孔を伴う症例(劇症型アメーバ赤痢)に対しては,ニトロイミダゾール系薬剤の投与に加えて,汎発性腹膜炎に対する治療〔緊急開腹手術(腹腔内洗浄+穿孔部位の腸管切除),広域抗菌薬,昇圧薬などによる全身管理〕が必要であり,内科医・外科医・救急医の連携が不可欠である。

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