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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症[私の治療]

No.5169 (2023年05月20日発行) P.49

長尾美紀 (京都大学医学部附属病院感染制御部部長/教授)

登録日: 2023-05-21

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  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)感染症は,感受性のよい黄色ブドウ球菌感染症と同様に,皮膚軟部組織感染症,血流感染症,肺炎などが主たる病態である。しかしながらβラクタム系薬に耐性であるため,使用できる抗菌薬が限られる。

    臨床現場で最も遭遇する機会が多いMRSA感染症は膿痂疹,蜂窩織炎などの皮膚軟部組織感染症である。そのほか,血管内留置カテーテルなどの医療デバイス関連感染症(カテーテル関連血流感染症や人工物感染症),感染性心内膜炎,骨関節感染症,肺炎は,長期の治療を要する場合があり,一部の患者は予後不良である。また,黄色ブドウ球菌は様々な毒素を産生することで,食中毒,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS),毒素性ショック症候群(TSS)等を引き起こすことがある。

    ▶診断のポイント

    診断は,感染フォーカスから採取された検体の培養検査(時に遺伝子検査)でMRSAを検出することが前提となる。血液,関節液,髄液など本来無菌である検体から検出された場合は,真の感染症原因菌として迅速な治療の対象となる。一方で,喀痰や皮膚から検出された場合は,保菌状態のみをみている可能性もあるため,臨床症状,検体の白血球の有無などから総合的に判断する必要がある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    感染フォーカスにより治療方針は異なる。軽症の皮膚軟部組織感染症の場合,内服薬としてはST合剤がよい選択肢となる。そのほか,ミノサイクリン,クリンダマイシン等は,薬剤感受性検査で感性を確認した上で使用する。ドレナージやデブリードマンが可能な病変があれば,抗菌薬投与に加えて切開排膿を行う。全身の炎症所見を伴うような皮膚軟部組織感染症,血流感染症,肺炎,骨関節感染症は,バンコマイシンの点滴加療を軸に治療方針を決定する。バンコマイシンでは薬物血中濃度モニタリングが必要であり,同じグリコペプチド系抗菌薬であるテイコプラニンも同様である。

    肺炎では肺組織移行性が高いリネゾリド,血流感染症ではダプトマイシンの投与を検討してもよい。リネゾリド,ダプトマイシンはいずれも薬物血中濃度モニタリングは行わない点に利便性があるが,前者は長期投与に伴う血小板減少,後者は肺胞内で肺サーファクタントに結合して不活性化するため肺炎に使用できないなどの注意点がある。また,両薬剤に対し耐性菌が報告されているため,治療抵抗性を示す場合は薬剤感受性を確認の上,抗菌薬の変更を検討する。

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