株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「パンデミックの海で③─民間チームに要請された感染制御」櫻井 滋

No.5164 (2023年04月15日発行) P.61

櫻井 滋 (東八幡平病院危機管理担当顧問)

登録日: 2023-04-03

最終更新日: 2023-04-03

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

急性感染症の検疫では、患者が少数の場合は専用車両で法指定の隔離施設まで搬送し、残る接触者に行政検査を行って影響範囲を確定し、安全に入国させる手順となる。しかし、感染制御が不完全なまま検疫に時間を要すれば二次流行が懸念される。

搬送先となる感染症指定病院は少数の患者隔離を前提に設置され、たとえ陰圧病室を有していても3500名もの疑い例の前ではあまりに非力である。まして船に患者を乗せたまま、換気状況を調査し施設を改修するなどという論は無意味なばかりか、感染制御の妨げになりかねない。その事情は一般医療機関も同じだが、当時、神奈川県をはじめとする多くの一般医療機関が果敢にも患者受け入れに応じたことは特筆に値する。

一方、その後の国内で「設備が不十分だから1名たりとも受け入れられない」と公言する医療機関も出現した1)。陰圧設備を理由に医学的緊急症を拒否するのかと当時は強い憤りを感じた。

船には災害派遣医療チーム(DMAT)が招集され、感染対策のために重症者を搬出するという、前例のない業務と対峙した。豊富な経験を有するDMATへの期待は大きかったが、検疫の場は都市災害とは異なり、瓦礫もなければ外傷患者もいなかったし、当該時点では感染症事案に特化した訓練を受けてもいなかった。実際に活動中の隊員が感染する事例も確認されるに至り、感染防御に関する課題が指摘されもした。

船医らは感染制御専門家の派遣を要望したが、日本には検疫中の船舶はおろか、感染症緊急事態を前提とする公的かつ機動的対応チームは存在せず、災害時感染制御支援チーム(DICT)の構築を急いでいた民間団体の日本環境感染学会(JSIPC)2)への協力が打診された。

クルーズ船と災害時の避難所での感染症流行事案では、外部への退避が許されず、偶然居合わせた集団が感染症と対峙するという共通点がある。しかし、未知の感染症に曝された船内へ誰が赴くべきか、それは恐怖と危険を伴う要請であり、まして法的義務のない民間人メンバーの安全確保に迷いがあった。

乗船は現地で判断することとし、仲間と連絡を取りながら急ぎ横浜に向かった。(続く)

【文献】

1)日本経済新聞:2020年4月24日.
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58434230U0A420C2000000/

2)一般社団法人日本環境感染学会(JSIPC). 
http://www.kankyokansen.org

櫻井 滋(東八幡平病院危機管理担当顧問)[新型コロナウイルス感染症][ダイヤモンド・プリンセス号]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top