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化学損傷[私の治療]

No.5159 (2023年03月11日発行) P.38

池田弘人 (青潤会青柳病院)

登録日: 2023-03-08

最終更新日: 2023-03-07

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  • 酸,アルカリ,金属,腐食性芳香族,有毒ガスなどの化学物質が皮膚,粘膜に付着,接触して起こる組織破壊を伴った様々な腐食現象を「化学損傷」と言う

    【化学損傷の特徴】

    障害の進行性:作用した化学物質が消費されるか,中和されるまで組織に対する破壊作用が続く。
    気道,消化管,眼球の化学損傷の重篤化:障害組織は皮膚に限らず,吸入されうるものであれば気道粘膜の損傷を生じ,嚥下により消化管粘膜に症状が生じ,大気中に浮遊した化学物質を含む飛沫が眼球結膜に付着し,障害を起こす。
    化学物質の体内吸収:化学物質によっては体内に吸収されることにより,臓器障害を起こす。

    【化学物質のタイプ別の特徴】

    塩酸,硫酸などの酸による損傷:酵素の活性を消失させる作用と,蛋白を変性させる作用があり,細胞壊死・組織破壊を生じるが,組織の深部に至る損傷は稀である。組織は乾燥壊死するため黒く硬くなる。フッ化水素には強い組織破壊作用があり,高濃度では短時間のうちに強い痛みとともに急激に組織破壊が進行し,低カルシウム血症による不整脈を起こす。
    水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどのアルカリによる損傷:水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化カルシウムなどには,酵素の活性を消失させる作用と,蛋白を変性させる作用があり,細胞壊死・組織破壊を生じ,組織の深部に損傷が達する。皮下脂肪に対しては,鹸化作用から脂肪壊死を起こす。
    ナトリウム,カリウム,マグネシウム,クロムなど金属およびその化合物による損傷:水分と反応して酸あるいはアルカリとして作用するほか,大きな反応熱による熱傷も生じる。クロム酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムは蛋白凝固壊死を起こし,体内に吸収され,様々な全身症状が起こる。
    リン,硫化水素,塩素などの非金属およびその化合物による損傷:リンは発火による火傷と発生したリン酸による腐食作用のほか,皮膚からの吸収により心室性不整脈,肝障害,腎障害が起こる。硫化水素,亜硫酸ガス,塩素,臭素は皮膚粘膜に対し強い刺激作用がある。
    フェノールなどの腐食性芳香族化合物による損傷:細胞膜の破壊,蛋白と結合し凝固させることによる腐食作用のほか,頻脈,血圧低下,呼吸抑制,意識障害,痙攣,心筋障害,心室性不整脈,メトヘモグロビン血症,肝障害,腎障害などを起こす。
    ホルムアルデヒド,ガソリンなどの脂肪族化合物による損傷:アルデヒド類には蛋白を凝固変性させる作用があり,エチレンオキサイドは接触により体内局所の浮腫,水疱形成が起こる。灯油やガソリン,軽油などとの接触では脱脂作用により表皮剝離が起き,長時間の接触が続くと皮膚全層の損傷となってしまう。また,吸入すると重篤な化学性肺炎から呼吸不全,大量に体内に吸収されると肝不全,腎不全の危険性がある。
    その他:高温のコールタールは接触熱傷を起こし,化学兵器であるマスタードガスは皮膚粘膜に強いびらんを生じさせる。

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