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ライム病[私の治療]

No.5143 (2022年11月19日発行) P.43

石黒信久 (北海道大学病院感染制御部部長/診療教授)

登録日: 2022-11-18

最終更新日: 2022-11-16

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  • マダニによって媒介されるスピロヘータの一種,ボレリア(Borrelia)の感染によって引き起こされる人獣共通感染症である。わが国ではBorrelia bavariensis, Borrelia gariniiが主な病原体となっている。ライム病ボレリアは,野山に生息するマダニに咬着されることによって媒介,伝播される。わが国においては,シュルツェ・マダニ(Ixodes persulcatus)の刺咬後にライム病を発症するケースがほとんどである。一般家庭内のダニで感染することはない。マダニ刺咬後にみられる関節炎,遊走性皮膚紅斑,良性リンパ球腫,慢性萎縮性肢端皮膚炎,髄膜炎,心筋炎などが,現在ではライム病の一症状であることが明らかになった。欧米の現状と比較して日本でのライム病患者報告数は少ないが,野ネズミやマダニの病原体保有率は欧米並みであることから,潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと考えられている1)

    ▶診断のポイント

    紅斑部の皮膚や髄液(髄膜炎,脳炎の場合)から病原体をPCR法や分離・同定法により検出する。あるいは,血清中の抗体を証明する(スクリーニングにはEIAまたはIFAを用い,確定診断にはWB法を用いる)。感染症法では全数報告対象(4類感染症)である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    ボレリアには抗菌薬による治療が有効であるが,抗菌薬の選択にはライム病の病期を理解することが重要である。

    感染初期(stage I):マダニ刺咬部を中心とする限局性の特徴的な遊走性紅斑を呈することが多い。随伴症状として,筋肉痛,関節痛,頭痛,発熱,悪寒,倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑の出現期間は数日~数週間と言われ,形状は環状紅斑または均一性紅斑がほとんどである。この病期の治療にはビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物),サワシリン(アモキシシリン水和物),オラセフ(セフロキシム アキセチル)が推奨される。ライム病ではAnaplasma phagocytophilum(ヒト顆粒球アナプラズマ症の病原体)等と重複感染を起こすことが知られているが,上記3剤の中ではドキシサイクリンのみがA. phagocytophilumに効果を示す。ただし,ドキシサイクリンを妊婦や8歳未満の小児に使用する際には十分な検討が必要である。マクロライド系抗菌薬の効果は上記3剤に劣ると考えられており,何らかの理由から上記3剤を服用できない場合の代替薬として位置づけされる。

    播種期(stage Ⅱ):体内循環を介して病原体が全身性に拡散する。これに伴い,皮膚症状,神経症状,心疾患,眼症状,関節炎,筋肉炎など多彩な症状がみられる。顔面神経麻痺,神経根障害,髄膜炎症状等の中枢神経症状があれば,上記3剤の中で最も髄液移行性がよいビブラマイシンを使用する。脳炎等の重症中枢神経合併症を伴う場合には,ロセフィン(セフトリアキソンナトリウム水和物)を使用する。有症状性の不整脈,PR間隔が0.3秒以上の1度房室ブロック,2~3度房室ブロックがある場合や,経口抗菌薬で改善しない関節炎にはロセフィンを使用する。

    感染後期(stage Ⅲ):感染から数カ月ないし数年を要する。播種期の症状に加えて,重度の皮膚症状,関節炎などを示すと言われる。わが国では,感染後期に移行したとみられる症例は現在のところ報告されていない。症状としては,慢性萎縮性肢端皮膚炎,慢性関節炎,慢性脳脊髄炎などが挙げられる。中枢神経病変を伴わなければ,ビブラマイシン,サワシリン,オラセフを使用する。中枢神経病変を伴う場合にはロセフィンを使用する。

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