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【識者の眼】「ブルシット・ジョブを嗅ぎ分ける能力が働き方改革の成否を握る」栗谷義樹

No.5136 (2022年10月01日発行) P.59

栗谷義樹 (山形県酒田市病院機構理事長)

登録日: 2022-09-22

最終更新日: 2022-09-22

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私の病院管理職生活は既に足掛け25年になるが、市立酒田病院長就任直後の1998年、私は業務効率化をめざして院内委員会に業務改善委員会を立ち上げた。

当初は数少ない医師の業務負担をできるだけ軽減することが目的で、委員には医師を含むすべての職種から出てもらい、職種横断的に院内における業務見直しを始めた。

ところが、委員会の議論が進んでいくうちに、当初の医師業務負担軽減の目論見を超えて、それまで疑問はあっても表に出ることがなかった不合理な職種間の慣行や無駄な仕事が次々と洗い出されていくことになり、次第に院内で最も活発な委員会に変貌していった。それまで各職域間で荷物を持ち合って互いに助け合うことがなかったことで生じていた非効率、無意味な仕事は次第に整理、改変されていくことになった。今でいうタスクシフトの走りと言える動きで、働きやすさ、経営改善に次第につながっていった。

先日、米国の人類学者デヴィッド・グレーバーに『ブルシット・ジョブ〜クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店,2020年)という著作のあることを知った。

無意味な仕事の存在とその社会的有害性を分析したもので、人は自分の仕事が社会や組織にとって無意味と自覚しながら働き続けることはできず、無意味な仕事は働く人の心理を破壊するとしている。ここでは「ブルシット・ジョブス」について5分類を挙げており、取り巻き、脅し屋、尻ぬぐい、書類穴埋め人、タスクマスター、と続く。

この中でタスクマスターとは、他人に仕事を割り当てるためだけに存在し、ブルシット・ジョブを作り出す仕事、中間管理職など……と説明されている。

思わず笑ってしまったが、タスクマスターは官民問わずわが国のあらゆる職場に蔓延しており、仕事のための仕事を際限なく作り出し、組織のエネルギー、労働生産性を削いでいることは自他を問わず実感するところだ。グレーバー氏は、労働とは本来生産ではなくケアだとも語っているという。

働き方改革を考えるとき、ブルシットの匂いを嗅ぎ分けるリーダーの能力は、働き方改革の成否を決定づけるような気がする。

栗谷義樹(山形県酒田市病院機構理事長)[タスクマスター][クソどうでもいい仕事の理論]

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