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第23回日本神経消化器病学会を振り返って

No.5129 (2022年08月13日発行) P.34

柴田 近 (東北医科薬科大学外科学第一(消化器外科)教授)

登録日: 2022-08-15

最終更新日: 2022-08-08

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1 初の完全WEB開催へ

第23回日本神経消化器病学会は,2021年10月7・8日に開催された(図1)。

2020年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響があるとはいえ,「どうにか現地開催ができないか」と模索していた。しかし,流行終息の兆しがまったく見えないため,現地開催を断念し,日本神経消化器病学会としては初の完全WEB開催の運びとなった。

学会テーマは,「Neo-Nervismの行方」とした。“Nervism”は,ロシアの生理学者Pavlovを頂点とした,生理現象における神経系の役割を強調する考えのことであり,20世紀初頭に隆盛を極めた。その後,消化管ホルモンの発見に伴い,消化管ホルモンが重要視される時代になったが,21世紀に差し掛かる頃には神経系の重要性が再認識されるようになった。このような流れと本学会の発足は無関係ではなく,また,この流れを“Neo-Nervism”と呼んだのは,私の恩師である群馬大学名誉教授の伊藤 漸先生であった,と記憶している。今回の学会が,Neo-Nervismの行く末を予測するようなものとなることを願って,このテーマとした。

 

2 特別講演

今回,特別講演として,オーストラリアのFlinders Medical CentreのPhil Dinning先生に,“High resolution colonic manometry”というタイトルでご講演頂いた。内圧測定は測定方法としては古典的だが,最近になって測定箇所を大幅に増やして測定を行う“high resolution manometry(HRM)”が行われるようになっている。HRMは特に食道内圧検査で広まっているが,大腸で精力的に行っているのがDinning先生であり,大腸運動に関するこれまでの概念を打ち破るような結果が報告された。

3 シンポジウム

【シンポジウム1:便秘】

シンポジウム1では便秘について取り上げ,①機能性便秘における腹部超音波検査の役割(国立病院機構函館病院/津田桃子先生),②便排出障害における専門的検査の診断能と臨床的意義(くにもと病院/安部達也先生),③失われていく腸内細菌~日本人便秘症の原因を探る~(京都府立医科大学/内藤裕二先生),と3演題が発表された。

【シンポジウム2:漢方と機能性消化管障害】

シンポジウム2では漢方と機能性消化管障害について取り上げ,①Dream studyについてあらためて考える~二重盲検比較試験結果から見た六君子湯とは,プラセボ効果とは~(星ヶ丘医療センター/富永和作先生),②胃で産生されるアナボリックペプチド グレリンの神経機能と臨床応用(宮崎大学/中里雅光先生),③機能性消化管障害における漢方の位置付け(東北大学/福土 審先生),と3演題が発表された。

【シンポジウム3:腸内細菌が脳腸相関に果たす役割】

シンポジウム3では腸内細菌が脳腸相関に果たす役割について取り上げ,①マウス若齢期社会的敗北ストレスによる,過敏性腸症候群様の病態と腸内細菌叢の変化(京都薬科大学/松本健次郎先生),②過敏性腸症候群に対するプロバイオティクス治療のエビデンス(名古屋市立大学/神谷 武先生),③機能性腸疾患に対する糞便移植療法Up-to-date(国際医療福祉大学/正岡建洋先生),と3演題が発表された。

4 一般演題

一般演題は合計で31演題あり,全演題が優秀演題賞の対象,一部の演題は並木賞の対象となった。

【セッション:便秘・下痢】

便秘・下痢のセッションでは,①多系統萎縮症による直腸低コンプライアンスの1例~蓄便期腹痛への関与(東邦大学医療センター/榊原隆次先生),②便秘症状に関連する腹部CT所見についての検討(順天堂大学/有井 新先生),③医療関係者における排便状態―生理との関連を中心に―(藤田医科大学/前田耕太郎先生),④上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤による下痢に対する半夏瀉心湯の作用(ツムラ漢方研究所/原田由美先生),と4演題が発表された。

【セッション:自律神経と消化器】

自律神経と消化器のセッションでは,①新たな敗血症死モデルラットの作成と迷走神経の役割(旭川医科大学/五十嵐 将先生),②低栄養加齢マウスの肝ミトコンドリアに対する補中益気湯の作用(ツムラ漢方研究所/藤塚直樹先生),③交感神経―肝オートファジー協調システムの障害が,加齢マウスの低栄養に対する脆弱性に関与する(ツムラ漢方研究所/最上祥子先生),④健康成人における朝食摂取が自律神経活動に及ぼす影響(名古屋大学/河野 葵先生),⑤最終食事摂取時間から入眠までの時間が睡眠に与える影響(名古屋大学/中山奈津紀先生),と5演題が発表された。

【セッション:脳腸相関・IBS】

脳腸相関・IBS(irritable bowel syndrome:過敏性腸症候群)のセッションでは,①アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬はIBSモデルの内臓知覚過敏・腸管透過性亢進を抑制する(旭川医科大学/野津 司先生),②イミプラミンはIBSモデルの内臓知覚過敏・腸管透過性亢進を抑制する(旭川医科大学/野津 司先生),③腸管神経系におけるTRPV2,TRPV1発現とTNBS誘起内臓痛覚過敏における役割の解明(京都薬科大学/松本健次郎先生),④脳内Adenosine A2B受容体の活性化はGhrelinによる迷走神経を介する腸管バリア改善に関与する(旭川医科大学/石王応知先生),⑤精神的ストレスがguanylin/uroguanylin発現と便性状に及ぼす影響について(兵庫医科大学/戎谷信彦先生),⑥ウェアラブルデバイスを用いた過敏性腸症候群の自律神経機能解析(大阪市立大学/中田理恵子先生),⑦過敏性腸症候群患者における3カ月後のQOL及び身体活動量(江南厚生病院/片岡萌々華先生),⑧大腸内視鏡画像AIモデルでの過敏性腸症候群検出精度の検討(富山大学/田畑和久先生),と8演題が発表された。

【セッション:消化管運動】

消化管運動のセッションでは,①ペースメーカ活動マイクロ連携におけるイオンチャネル群の役割(名古屋大学/中山晋介先生),②ムスカリン性アセチルコリン受容体M3の消化管部位特異的な消化管運動機能における役割(九州大学/五十嵐洋子先生),③温度感受性受容体TRPM8を介した消化管蠕動制御機構(京都府立医科大学/杉野敏志先生),④半夏厚朴湯の術後腸管麻痺モデルマウスに対する抗炎症作用の解析(北里大学/遠藤真理先生),⑤大建中湯によるラットの結腸運動亢進作用と開腹術後の排便亢進作用(ツムラ漢方研究所/久保田訓世先生),と5演題が発表された。

【セッション:FD】

FD(functional dyspepsia:機能性ディスペプシア)のセッションでは,①日本における膵酵素異常を伴うディスペプシア患者の多施設疫学調査(日本医科大学/山本真梨子先生),②十二指腸画像AIモデルでの機能性ディスペプシア検出精度の検討(富山大学/三原 弘先生),③機能性ディスペプシアのRomeⅣ基準で何が変わったのか(兵庫医科大学/青野颯太先生),④機能性ディスペプシアにおける十二指腸タフト細胞に関する検討(兵庫医科大学/黄 欣儀先生),と4演題が発表された。

【セッション:GERD,NERD,食道運動】

GERD(gastroesophageal reflux disease:胃食道逆流症),NERD(non-erosive reflux dis-ease:非びらん性胃食道逆流症),食道運動のセッションでは,①弱酸刺激による食道上皮細胞からのPGE2産生機序と半夏瀉心湯の効果(ツムラ漢方研究所/貞富大地先生),②軽症逆流性食道炎とNERD発症における唾液分泌,唾液中EGFの影響(日本医科大学/門馬絵理先生),③VonoprazanによるNERD治療において,NABが治療抵抗性に関連する(東北大学/齊藤真弘先生),④嚥下障害を伴う封入体筋炎の咽頭食道high resolution manometry(岩手医科大学/千葉俊美先生),⑤シカゴ分類タイプ別に見た食道アカラシアにおけるUES機能及び臨床的特徴像に関する検討(川崎医科大学/勝又 諒先生),と5演題が発表された。

5 一般演題の審査結果

審査の結果,最優秀演題賞には川崎医科大学の勝又 諒先生による「シカゴ分類タイプ別に見た食道アカラシアにおけるUES機能及び臨床的特徴像に関する検討」が選ばれた。この演題は,食道アカラシア症例でHRMを行い,シカゴ分類別のタイプによって臨床・生理学的特徴が異なることを示した,示唆に富む発表であった。

また,優秀演題賞には京都府立医科大学の杉野敏志先生による「温度感受性受容体TRPM8を介した消化管蠕動制御機構」が選ばれた。この演題は,寒冷受容体であるTRPM8を刺激すると腸管蠕動の抑制が起こることを大腸で示した,興味深い発表であった。もう1つの優秀演題賞には,富山大学の三原 弘先生による「十二指腸画像AIモデルでの機能性ディスペプシア検出精度の検討」が選ばれた。この演題は,ピロリ感染の有無が判明していれば十二指腸画像でFDの有無を判定できる可能性を示した発表であった。

並木賞には大阪市立大学の中田理恵子先生による「ウェアラブルデバイスを用いた過敏性腸症候群の自律神経機能解析」が選ばれた。この演題は,ウェアラブルデバイスを用いてIBS症例と健常例の自律神経活動を長時間記録し,IBS症例における排便前の交感神経活動の活性化を示した発表であった。

6 市民公開講座

学会に引き続き,翌日の10月9日に市民公開講座が行われた(図2)。東北大学の金澤 素先生に,「『便秘』って病気? ~病院を受診すべき便通異常~」という演題で,概念から治療に至るまで,慢性便秘症について幅広くご講演頂いた。完全WEB開催だった学会に準じ,事前収録の講演を配信する方法で行われた。そのため,全国のどこからでも講演が視聴可能となり,81回の視聴回数が記録され,多くの方にご視聴頂くことができた。


7 学会を終えて

今回は,コロナ感染状況から完全WEB開催となった。完全WEB開催は,開催会場に赴く必要がないため,参加しやすいことが利点と考えられる。しかし,その一方で,研究者どうしが直に交流できないことが欠点であろう。

コロナ禍がおさまって,現地開催できる日が来ることを,切に願う。

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