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【識者の眼】「研修医の働き方改革④─自己研鑽の重要性」西﨑祐史

No.5116 (2022年05月14日発行) P.61

西﨑祐史 (順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)

登録日: 2022-04-19

最終更新日: 2022-04-19

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ウィリアム・オスラー氏は、“To study the phenomena of disease without books is to sail an uncharted sea, while to study books without patients is not to go to sea at all”という格言を残した1)。これは、自己研鑽が臨床能力の向上において、重要な要素のひとつであることを示している。

実際に、海外の研究者から、自己研鑽時間は、基本的臨床能力の開発において重要であるというエビデンスの報告がある2)3)

このことは、わが国の研修医にも当てはまるのだろうか?(自己研鑽の時間が長い研修医のほうが、高い臨床能力を有しているのだろうか?)

この疑問に対し、私たちは、NPO法人日本医療教育プログラム推進機構(Japan Institute for Advancement of Medical Education Program:JAMEP)が開発した、基本的臨床能力評価試験(General Medicine In-Training Examination:GM-ITE)のデータを用いて評価した。

研究デザインは横断研究で、対象者は、2016〜18年度にGM-ITEを受験した卒後1年目および2年目の研修医1万1244人である。研究方法は、アンケート調査で収集した研修教育環境(自己研鑽時間の質問を含む)とGM-ITEスコアとの関連性を多変量解析(病院分類、救急当直の回数、入院患者受け持ち人数等の変数で調整)にて評価した。

その結果、自己研鑽時間が0の研修医と比較し、1日の自己研鑽時間が31〜60分の研修医は、スコアが平均1.14点(標準誤差0.29点、P値<0.001)高く推定され、1日の自己研鑽時間が91分以上の研修医は、平均2.21点(標準誤差0.46点、P値<0.001)高く推定された4)

2024年度より医師の働き方改革により労働時間が制限される。研修医は、基本的臨床能力の開発の必要性から、年1860時間かつ月100時間までの時間外労働が許容される(C-1水準)。これは、一般の医師の労働時間より長く設定されている。しかしながら、これまでと比べると、臨床現場における、研修医の診療の機会(経験)が減る可能性があるだろう。それを補うためにも、今後は、今まで以上に質の高い自己研鑽の時間を確保することが大切になっていくだろう。

※「NPO法人日本医療教育プログラム推進機構」および、「基本的臨床能力評価試験」の詳細については、第1回の記事を参照。〈4月19日〉

【文献】

1)Osler W:Boston Med Surg J. 1901;144:60–1. https://doi.org/10.1056/NEJM190101171440304

2)Bull DA, et al:Am J Surg. 2001;181(2):142-4.

3)Philip J, et al:J Clin Anesth. 2006;18(6):471-3.

4)Nishizaki Y, et al:BMC Med Educ. 2020;20(1):426.

西﨑祐史(順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)[研修医][働き方改革]総合診療

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