近年,精神科領域でも当事者視点から生まれた自身の人生や自尊心,目標といった,人としてのあり方を取り戻すことに主眼を置くリカバリーの概念が知られるようになった
リカバリー視点に重点を置き,心理教育的な手法と認知行動的な手法をパッケージとしたIMRは精神障害を持つ人たちのリカバリーの支援の一助となることが期待される
リカバリーの支援のためには単にプログラムへ導入するだけでは不十分であり,当事者と専門職がリカバリーについて話し合い,そのモデルが存在する環境を整備していくことも忘れてはならない
精神科臨床の現場で当事者視点を重視したリカバリーの考え方が,わが国においても広く知られるようになって久しい。ことにこの10年,様々な精神科領域の学術雑誌に「リカバリー」をキーワードにした論文が掲載され,種々の講演会などでも「リカバリー」を冠したものがしばしばみられるようになっている。近年使われているこれらのリカバリーという用語には,大きく2つの潮流があるものと筆者は理解している。その2つの潮流は,必ずしも相反や矛盾を示しているわけではないものの,着目している点の違いには,いささかの注意が必要である。ひとつは,感染症からの回復や外科的な治療後に使われるリカバリーと同様の,問題となる病気がなくなって元に戻ることを意味する伝統的な使い方1)であり,もうひとつは,病気や障害の程度や有無ではなく,人生や自尊心,目標といった,人としての在り方を取り戻すことに着目した使い方である。
前者は医学的な定義としての使い方とも言え,最近ではLiebermanら2)による定義がしばしば用いられる。すなわち,①症状の寛解〔簡易精神症状評価尺度(brief psychiatric rating scale:BPRS)のすべての陽性・陰性症状の得点が4点以下であること)〕,②就労ないし就学が通常の半分程度以上,③金銭面や服薬管理といった点での自立的な生活,④社会的な人間関係が維持されている,の4項目すべてが2年以上保たれている,という定義である。臨床の実感から予測できるように,このLiebermanらの定義を満たす人の割合は多くなく,初回エピソードの人たちを対象としたRobinsonら3)の追跡研究におけるリカバリー達成率は3年後で10%に満たず,5年後でも15%を超えていない。これらを悲観的な数字と感じる当事者や家族は多いかもしれないが,この医学的な定義は提供できる治療によって期待される「病気がなくなって元に戻ること」という,病を得た人が当然期待することにどのくらい応えられるかを客観的に示す意味で,欠かせない指標であるとともに,今後登場する薬物も含めた新たな介入方法の効果を検証する上でも重要な定義である。
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