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『医療イノベーションの本質』をどう読むか?─日本にはまったく適用できない [深層を読む・真相を解く(51)]

No.4790 (2016年02月13日発行) P.15

二木 立 (日本福祉大学学長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 今回は、「破壊的イノベーション」で一世を風靡した米国の著名な経営学者C・M・クリステンセン氏(ハーバード・ビジネススクール教授)らの包括的な医療改革論『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(山本雄士・的場匡亮訳、碩学舎、2015(原著2008))を検討します。

    1月16日号の連載㊿「厚労相の私的懇談会提言『保健医療2035』をどう読むか?」では紙数の制約のため触れられませんでしたが、「保健医療2035」には医療イノベーションへの過剰な期待があります。例えば、「イノベーションサイクルが20年程度であるとされることも踏まえると、2035年の保健医療に関する技術は大きな進歩を遂げていることが予測される」(7頁)です。この一文の根拠として上掲書が挙げられ、しかも訳者の山本雄士氏は「保健医療2035」懇談会委員でもあり、上掲書が「保健医療2035」でも参考にされた可能性があると考えました。ただし、結論的に言えば、これは杞憂でした。

    「破壊的イノベーション」とは?

    「破壊的イノベーション」はクリステンセン氏が約20年前に、ディスク・ドライブや掘削機業界などの詳細な事例分析に基づいて提唱した概念です。氏は、ビジネス・イノベーションは、高品質の製品やサービスを提供し既存市場を支配している大企業主導で行われるという通説を批判し、低コストかつ当初は低品質のビジネスモデルを持つ企業が市場の周辺から登場し、徐々に市場での地位を高め、実力ある競合相手を破壊すると主張しました(伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ─技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社、2001(原著1997))。

    『医療イノベーションの本質』では、この破壊的イノベーションは①「牽引技術」(複雑な問題を単純化する技術)、②「低コストで革新的なビジネスモデル」、③「バリューネットワーク」(産業のインフラとなるネットワークであり、参加企業は、破壊的で相互補完的な経済モデルを持つ)の3つの要素からなるとされていますが、根幹をなすのは①の牽引技術です(6-7, 78頁)。

    クリステンセン氏は、破壊的イノベーションをすべての産業に適用できる「一般モデル」・「理論」と主張し、この視点からさまざまな業界を検証しています。本書では、このモデルを適用して、医療が高価で手の届かないものになってきた根本原因を説明し、「コストを下げながら高い質を達成する」ための処方箋を提示しています。この前提として、「基本的問題は医療に特有のものではない」(208頁)と断言し、「医療問題の解決策を導き出すのに医療について学んでいない」とまで豪語しています(5頁)。

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