「肥満」は,脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり,わが国では「BMIが25(kg/m2)以上の場合」と定義される。これに対して「肥満症」は,「肥満に起因あるいは関連して発症する健康障害を伴い,医学的な見地から減量が必要な肥満」を指す。さらに,BMIが35以上で健康障害を有する症例は,「高度肥満症」と呼ばれ,より専門的な診療を必要とする場合が多い。肥満症の病態形成には,内臓脂肪の過剰蓄積が重要と考えられている。
肥満症の診断にあたっては,単に“太っている人”ではなく,“体重を減らすことにメリットがある人”を選び出すという視点が重要である。耐糖能障害,脂質異常症,高血圧症,高尿酸血症・痛風,冠動脈疾患,脳梗塞,脂肪肝(NAFLD),月経異常・妊娠合併症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群,運動器疾患,肥満関連腎臓病という11の健康障害のいずれか1つ以上または内臓脂肪蓄積(腹部CTの臍高部断面像で内臓脂肪面積が100cm2以上)を伴う肥満を「肥満症」と診断する。
肥満症治療の目標は,減量を通じて肥満に伴う健康障害を解消あるいは軽減,予防することにある。日常診療では,体重またはウエスト周囲長を3%以上,3~6カ月を目安として減少させることが推奨される。高度肥満症の場合には,治療前の体重から5~10%以上の減少を目標とする。
肥満は,摂取エネルギー量が消費エネルギー量を上回ることによって生じるため,それらのバランスを逆転させることが肥満症治療の考え方の基本になる。脂肪1gは9kcalの熱量を有するが,体脂肪組織には水分も含まれる。このため,肥満症診療においては,通常,脂肪組織1gを約7kcal相当として計算する。すなわち,3kgの脂肪組織からは3000g×7kcal/g=2万1000kcalの熱量が得られるため,1日のエネルギー消費量を2000kcalとすれば,2万1000kcal÷2000kcal/日=10.5日となり,理論上は自分の脂肪を燃やすだけで約10日間生活できる。一方,実生活においては,水分やミネラル,骨格筋を保つための蛋白摂取など最低限の栄養補給が必要であるため,患者の病態に応じた食事療法を選択する。
肥満症の治療では,食事療法と運動療法を基本に行動療法を加えることで,生活習慣の改善を長期的に維持することを心がける。通常,3カ月をめどに,減量や合併症軽減などの治療効果を評価し,治療の継続,あるいは内容や強度の見直しを行う。他の生活習慣病の管理と同様,食事療法や運動療法だけで目的とする減量を達成できない場合に薬物の使用を考慮する。高度肥満症においては外科療法も有効な選択肢となる。
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