主に高齢者に生じる脊柱前縦靱帯の骨化を病態とする疾患を,強直性脊椎骨増殖症と呼ぶ。強直性脊椎骨増殖症の患者では,脊柱以外の四肢関節部位にも骨増殖が認められることが多く,全身性の疾患という観点から,びまん性特発性骨増殖症とも呼ばれる。50歳以上の男性に多く,罹患率は6~12%と報告されている1)。
診断は脊椎の画像診断によって行われる。単純X線またはCTにて,胸腰椎が前縦靱帯の骨化により4椎体以上連続していれば強直性脊椎骨増殖症と診断される。強直性脊椎炎と異なり,仙腸関節は保たれており,血液検査での炎症反応やHLA-B27は陰性である。
強直性脊椎骨増殖症そのものは無症候のことも多く,その存在自体は治療対象にはならない。症状が脊柱可動域制限のみであれば,無理のない範囲での体幹ストレッチなど,運動を励行する。連続した前縦靱帯骨化が途切れた部位,すなわち可動性が残っている椎間には,代償性に過大な力学的負担がかかり椎間関節や椎間板などに障害をきたしうる。そのため腰背部痛をきたす場合もあるが,このような症例にも対症療法(薬物治療,理学療法,物理療法)にて対応する。薬物治療は,急性期疼痛であれば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用するが,急性期を過ぎた亜急性期および慢性期疼痛であれば弱オピオイドやデュロキセチンの投与を検討する。
一方,先述した可動椎間への代償性の過大な力学的負担が,椎間関節や黄色靱帯の変性を惹起または加速させ,腰部脊柱管狭窄症をはじめとする圧迫性神経障害を生じる場合がある。この場合は神経障害性疼痛に対する治療を検討する必要があり,薬物治療としてはプロスタグランジンE1製剤やプレガバリン,デュロキセチンといった薬剤の投与が検討される。ただし,神経症状の悪化(運動麻痺や間欠跛行の増強)が認められる場合には,いたずらに保存治療に固執せず,外科的治療も検討すべきである。
また,連続する前縦靱帯骨化により可撓性を失った脊柱は,転倒などの軽微な外力でも大きなモーメントがかかるため,脊椎損傷をきたす場合がある。わが国では胸腰椎の損傷が多いと報告されており,超高齢社会の到来で今後増加することが予想される2)。単純X線では初期の自覚症状が乏しい場合などでは骨折を見過ごされることがあり,遅発性麻痺を生じて初めて診断される例も少なくない。軽微な外傷のエピソードであっても,腰背部痛に加え神経症状を認めた場合は,CTやMRIといった画像検査を追加することが望ましい。脊椎損傷がある場合には,損傷部への力学的負荷が大きいため保存加療では骨癒合が得られにくいことが多く,神経症状の改善も困難なことが報告されている2)。また,高齢者に長期臥床を強いることは,全身状態の悪化をきたしうる。よって,外科的治療を含め早急に専門医に相談すべきである。
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