No.5013 (2020年05月23日発行) P.67
小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)
登録日: 2020-05-07
最終更新日: 2020-05-07
2020年2月20日に、厚生労働省から体罰の定義や範囲等をとりまとめたガイドライン『体罰等によらない子育てのために〜みんなで育児を支える社会に〜』が発表されたことを受けて、2月28日に国際NGO「子どもに対するあらゆる体罰を終わらせるグローバル・イニシアチブ」が、日本は世界で59番目の体罰全面禁止国になったと声明を発表した。そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の陰で4月1日に改正児童虐待防止法が施行された。
厚生労働省は「体罰等によらない子育てのために」リーフレット1)を作成し公開しているが、COVID-19の流行もあり法施行や体罰によらない子育てについての啓発、広報は思うように進められていない。このリーフレットにもあるような「体罰をしてしまう背景」や「子どもとの関わりの中での具体的な工夫のポイント」は、学校の休校、外出自粛だけでなく、社会的にも家庭に大きなストレスがかかっている今だからこそすべての国民に知ってもらう意義がある。COVID-19流行下における子どもとの付き合い方の一環として、体罰禁止に関わる啓発、広報も合わせて行っていきたい。
医療機関における体罰禁止に関わる取り組みとして、米国で広まってきている「ノー・ヒット・ゾーン運動(NHZ)」を日本に導入する動きも出てきている2)。院内を「非暴力区域《ノー・ヒット・ゾーン》」と宣言し、暴力/体罰防止に病院全体で取り組むというものだ。大人から子どもへの暴力だけでなく、大人同士、子ども同士、子どもから大人へも含め、すべての暴力をその対象とする。この運動は、ただ単に非暴力区域を宣言するだけではなく、職員を対象として体罰禁止の基礎的な知識や実際に暴力を認めた際(例えば外来の待合で子どもを叩いている親を見たとき等)にどのように対応するかについての全職員に向けた研修等院内啓発も含まれている。ポスターや院内啓発に関わるスライド資料等も参加医療機関には共有される。NHZはその効果についても評価がなされており、複数の報告がある。
COVID-19の流行によって医療機関は大きな困難に直面している。しかしそれは、子どもや家族のことに目を向ける余裕がないという言い訳にはならない。
【文献】
1) [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/taibatu.html]
2) [https://plaza.umin.ac.jp/nhz/]
小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉][体罰禁止]