【従来の疾患概念に大きな疑問が呈されている】
従来,胸郭出口症候群(TOS)とは,主に若年女性にみられ,上肢・指のしびれ・痛みを主訴とし,そのほか肩こりや頸部痛など多彩な症状を呈し,Adson試験,Wright試験などの誘発手技で診断されるが,他覚的異常や検査所見に乏しいということが比較的多い疾患と信じられ,教科書にもそのように記載されてきた。治療としては保存療法がまず推奨されるが,治療抵抗例では第一肋骨切除術などの手術療法が広く行われていた。
1980年代後半から米国クリーブランドクリニックのWilbournは,このような疾患概念はその存在さえ怪しいとして「disputed neurogenic TOS」と名づけ,特に手術治療を激しく批判し,大きな議論を巻き起こした。
Wilbournらが唯一確立した疾患概念として認めたのは真の神経性胸郭出口症候群(true neurogenic TOS:TN-TOS)であり,これは母指球萎縮と手指運動障害を主訴とし慢性に進行する運動優位の疾患で,感覚障害や痛みは一般に乏しい。その本態は頸肋ないし第7頸椎横突起から第1肋骨に延びる線維性索状物によって,腕神経叢のT1>C8脊髄前枝ないし下神経幹が下方から圧迫を受けて発症するもので,神経伝導検査で確実に診断できる。
上記の議論とTN-TOSの概念は,わが国ではほとんど知られていなかったが,筆者らは2010年代前半よりTN-TOS自験例を報告するとともに,その概念の普及に努めている1)。
【文献】
1) 園生雅弘:Brain Nerve. 2014;66(12):1429-39.
【解説】
園生雅弘 帝京大学脳神経内科主任教授