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【識者の眼】「市中病院内視鏡医師から見た内視鏡的消化管止血術件数の全国推移」渡邉一宏

No.5007 (2020年04月11日発行) P.62

渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)

登録日: 2020-03-30

最終更新日: 2020-03-31

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前回(No.5000)、2008年から東京世田谷区の上部消化管出血は減少したことを指摘した。日本全国では、どうなのであろうか? これは医療行為の標準化を目指す診療群分類包括評価(DPC)からK654内視鏡的消化管止血術(胃、十二指腸)4600点の全国件数で見てみたい。

日本のDPCにおいて「手術」は包括ではなく出来高払いのため各年度比較も可能である。厚生労働省のNDBオープンデータ1)のK654件数は全国(図左)で2014年の約11万2000件から2017年の約10万6000件と約6000件減少しているが、逆に一部の地域では高齢者の抗血栓薬服用者の出血性潰瘍増加の報告もあり、今後も長く経年推移を見守る必要はある。ちなみに当院のK654件数は実際の当院止血件数の1.5〜2倍であった。つまり、この件数は単純に吐血・タール便からの内視鏡止血術とイコールではなく、内視鏡治療中・治療後の止血、単一症例の複数回追加止血や念のため止血なども含まれることに注意が必要である。

さて日本の医療費は2018年には、ついに42兆6000億円となり2003年から導入のDPC単体では抑制しきれないことがわかってきたが、K654の減少は望ましいことである。このような減少モデルを解析することが医療費削減のヒントになるのかもしれない。

次に内視鏡止血手技2)についても触れておきたい。止血術の主流は1995年頃のクリップ止血から2006年の胃で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が保険収載される頃には、ESDに使われる止血鉗子での凝固止血へ変遷した。市中病院の当院からは2012年に2種クリップ併用止血法の手技3)を公開・発表した。ショートクリップで出血点を押さえ、さらに腕の長いロングクリップで深い流入血管を粘膜ごと把持することで追加止血が有意に減少した。現在は抗血栓薬服用高齢者も多くなり止血困難症例にも遭遇する。このような時に現場では、懐の深い多彩な止血の技とその限界からIVR/手術への移行時期も後進に伝えていく必要がある。ただ当院も一時マスク不足になり医療費削減どころではない。エアゾル、糞便からのウイルス感染の可能性があり、内視鏡従事者は必ず日本消化器内視鏡学会のCOVID-19対応の提言(最新は3月30日更新)4)を確認していただきたい。米国消化器病学会からは不急の内視鏡検査の遅延と内視鏡従事者を縮小し防護具(PPE)の徹底〔ガウン、手袋、ヘアカバー、および眼の保護(ゴーグルまたは顔面シールド)、N95マスク〕が提言5)されています。

【文献】

1)厚生労働省NDBオープンデータ第1〜4回.
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html]

2)藤城光弘, 他:Gastroenterol Endosc. 2015;57:1648-66.

3)渡辺一宏:Progress of Digestive Endoscopy. 2012;80:55-8.

4)日本消化器内視鏡学会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療の対応について.
[https://www.jges.net/news/news-official/2020/03/25/27450]

5)Joint GI Society Message on PPE During COVID-19.

  [https://gi.org/2020/04/01/joint-gi-society-message-on-ppe-during-covid-19/]

渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][上部消化管内視鏡止血②]

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