入院による環境変化や身体治療に伴う不安感,心理的ストレスは,睡眠に影響を及ぼすだけでなく睡眠欲求を助長しやすい
不眠に対して,ベンゾジアゼピン(BZ)受容体作動薬がよく処方されているが,転倒やせん妄の発症には十分注意する必要がある
新規の睡眠薬は,転倒やせん妄のリスクを軽減させる可能性がある
わが国は超高齢化社会を迎えており,総務省データによると2017年1月の時点での高齢化率(65歳以上の人が全人口に占める割合)は27.4%と報告されている。また,2016年度内閣府データによると,医療機関を受診する年齢別の人口は,外来,入院とも65歳以上が最も多いことが示されている。
本稿では,合併症を抱えた入院治療中の高齢者を想定し,不眠への対応とその注意点について概説する。
加齢に伴う自然な睡眠構造の変化は,高齢者にとって「以前のように眠れない」といった不眠の感覚を抱かせやすい。さらに入院や身体治療に伴う不安感や心理的ストレスは,睡眠に影響を及ぼすだけでなく,睡眠欲求を助長する要因ともなりやすい。そのため,医療現場では患者の不眠の訴えに応じて,睡眠薬が安易に使用される傾向がある。
一方,2016年に発表された米国内科学会による成人の慢性不眠症の管理に関するガイドラインでは,まず認知行動療法を行うことが推奨されていることから1),国内の医療現場においてもまずは睡眠衛生指導を含めた非薬物的アプローチを基本としていく必要がある。しかしながら,非薬物的アプローチの効果を得るには一定の時間を要する上に,患者自身の忍耐も求められる。さらには,入院治療に伴う不眠では,physical(身体的要因),physiological(生理学的要因),psychological(心理的要因),psychiatric(精神医学的要因),pharmacological(薬理学的要因)といった不眠の原因(5つのP)のほとんどが当てはまる特徴があり,特に,身体的,心理・精神的,薬理学的要因による覚醒刺激は速やかな改善が難しい場合も多い。入院中に不眠が持続することは,日中の眠気や認知機能,治療選択の意思決定などへ影響が出るばかりではなく,様々な苦痛の閾値にも影響を与えるため,適切な睡眠薬を使用し,しっかり睡眠を確保することが,療養中のquality of life(QOL)を改善することにもつながると考えられる。