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【識者の眼】「スフィア・ハンドブック(Sphere Handbook)を避難所に届けたい!」中村安秀

No.5214 (2024年03月30日発行) P.56

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2024-03-21

最終更新日: 2024-03-19

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能登半島地震から2カ月余。3月12日時点で公表されている避難所数は452カ所、避難している方は9700人以上にのぼっていた。毎日のように、避難所や自宅で暮らす方々が食事、水、トイレに困窮している状況とそれに対する支援の様子が報道されている。

世界では1990年代から現在に至るまでの国際緊急人道支援の反省や教訓から、国際NGO、赤十字・赤新月社、国際機関などにより、被災者の生命と安全、尊厳と権利を尊重した支援を行うための最低基準を共有している。これは「スフィア基準」と呼ばれ、内閣府が2016年にまとめた『避難所運営ガイドライン』において避難所の質の向上を考えるときに参考にすべき国際基準として紹介されている。

この基準をまとめた『スフィア・ハンドブック』は、支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク(JQAN)のホームページで全文がダウンロードできる。

スフィア・ハンドブックは、「災害や紛争により影響を受けたすべての人びとは尊厳を持って生きる権利と人道支援を受ける権利を持っている」という確固とした理念に基づき作成されている。被災状況を迅速にアセスメントして、援助機関同士の調整と協働のもとで、人間中心の人道的対応を実施できるよう、具体的な基準を提示している。

書かれているのは、狭義の保健医療ケアだけではない。水と衛生、食糧と栄養、住居や避難所環境などに関して1つずつ具体的に解説している。たとえば、水は1人当たり1日に最低15リットルが必要。避難所内の居住空間では、1人当たり3.5m2の居住スペース(調理スペース、入浴区域、衛生設備を除く)が基本指標である。緊急事態の初期段階では、共同トイレは50人に最低1基が必要。その後、状況の改善を図り、中期段階では共同トイレは20人に最低1基とし、女性用と男性用の割合は3対1、内側から施錠でき適切な照明がついているトイレが推奨されている。

この400ページを超える大部のハンドブックは、社会経済状況も異なる世界各国に対して上から押しつける基準ではない。水供給や住居の基準も、国や地域により環境が異なり、支援状況や復興段階により必要量が異なるので、基本指標も決して絶対値ではない。しかし、自然災害で避難を余儀なくされ、紛争で国境を越え難民となった人たちに対する人道支援の現場では、世界各地から集結した支援団体がスフィア・ハンドブックという共通基準に準拠し、できるかぎり早急に公平な支援を届けようとしている。

被災した人々は「支援を受ける権利を持っている」というスフィア・ハンドブックの理念が、支援する人びとにも、そして何よりも支援を受ける人びとにも届きますように……。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[能登半島地震][避難所][災害地域支援][スフィア基準]

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