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ノロウイルス感染症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
片山和彦 (北里生命科学研究所北里大学感染制御科学府ウイルス感染制御学Ⅰ教授)
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  • ■疾患メモ

    カリシウイルス科ノロウイルス属のノーウォークウイルスが経口感染して引き起こす感染症である。

    ノロウイルスは1gの患者便に1億個(1gの患者嘔吐物にはその1/100程度)ほど含まれており,約100~1000個で感染が成立する。アルコールなどの消毒薬に対する抵抗性が高く,次亜塩素酸ナトリウム,もしくは加熱変性によって消毒することが推奨されている。

    全人口の数%~10%程度が,不顕性感染者として存在すると考えられている。不顕性感染者の便にも大量のノロウイルスが含まれるため,不顕性感染者が食中毒,流行の起点となることもある。

    ノロウイルス属にはノーウォークウイルス種以外のウイルス種がないため,属名を用いてノロウイルスと呼称されることが多い。遺伝的に異なる5つのグループ(GⅠ~Ⅴ)が報告されている。ヒトに感染するのはGⅠ, GⅡ, GⅣである。

    GⅢはウシのノロウイルス,GⅤはネズミのノロウイルスであり,ヒトには感染しない。それぞれのグループには遺伝子型(GⅠ:9種類,GⅡ:22種類,GⅣ:2種類)が存在しており,多様性に富む抗原性を示す。

    ヒトに感染するノロウイルスの宿主はヒトであり,ヒトの体内以外で増殖できない。ヒトからヒトに感染(ヒト─ヒト感染)することで流行を維持している。

    冬季のノロウイルスによる食中毒は,感染者が食物などに付着させたノロウイルスに起因する。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    主症状は嘔吐,下痢,発熱。初期に胃部不快感などの上部消化管症状を呈し,嘔吐,発熱がある場合が多い。その後,激しい水様性下痢となる。体力のない小児,高齢者は,脱水に対する注意が必要である。通常2~3日で症状は治まるが,ウイルスの排泄は1~2週間続く。長い場合では約1カ月以上にわたり排泄される。健常者へのノロウイルス感染は,顕性,不顕性ともに一過性である。

    【検査所見】

    上記症状と年齢,季節(主に11~3月の冬季),周辺地域の流行状況などにより総合的に判断する。症状から細菌性とウイルス性の鑑別は困難だが,血便の場合は細菌性をより強く疑う。

    ノロウイルス感染症はロタウイルス感染症と異なり全年齢層で認められる。ノロウイルスに近縁なウイルスであるサポウイルス感染症も同様の症状を呈し,症状から鑑別は困難である。ロタウイルスとの比較では,ノロウイルス感染症のほうが下痢期間が短く,麻痺,脳症,腸重積などの合併症を伴うことが少ない。

    脱水を起こしやすい3歳未満65歳以上の場合は,保険適用されているノロウイルス迅速診断キットを確定診断に用いることができる。

    入院が必要な患者(二次感染による院内感染を防ぐため個室隔離にするかどうかの判断のために必要)や患者本人,または両親の強い希望(食品関連で働いている等の理由による)がある場合は,自費で検査を行う。ELISAベースの検査,核酸増幅法(PCR,LAMP法など)による超高感度検査がある。

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