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好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA):アレルギー性肉芽腫性血管炎,チャーグ・ストラウス症候群

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-07-21
谷口正実 (相模原病院臨床研究センターセンター長)
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  • ■疾患メモ

    2012年,Chapell Hillカンファレンスにおいて,チャーグ・ストラウス症候群(Churg-Strauss syndrome:CSS)から好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)に名称が変更された。それに伴い,邦訳名もアレルギー性肉芽腫性血管炎から好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に変更となった1)2)

    granulomatosis with polyangiitis(GPA,旧Wegener肉芽腫)やmicroscopic polyangiitis(MPA)とともに,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連全身性血管炎として,1つの症候群で呼ばれる2)~4)

    EGPAでは重度の腎障害例は少ないが肺病変は多く,アトピー素因の少ない好酸球増多の目立つ重症喘息と好酸球性副鼻腔炎が数年先行し,末梢血好酸球の著明増多とともに,全身諸臓器の好酸球炎症と血管炎症状(臓器虚血)の2つの病態で発症するのが特徴であり,病理学的には好酸球やリンパ球浸潤を伴う肉芽腫性壊死性血管炎も呈する2)~4)

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    〈血管炎発症前〉

    喘息,特に成人後に発症した好酸球増多の目立つ好酸球性鼻副鼻腔炎を伴う重症喘息を,ほとんどで認める。また,3割で慢性好酸球性肺炎の先行もある。に本症の典型的な経過を示す。

    11_17_好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA):…

    〈血管炎発症時〉

    発熱,筋肉痛,急激な体重減少などの血管炎症状に加え,特に多発性単神経炎症状(四肢末梢の痺れや筋力低下)を90%以上の症例で認める。手足の痺れや箸が持てない症状,垂れ足などが出現する。ほかに皮膚症状(紫斑など),心障害(動悸,不整脈,心不全症状など)や消化管虚血症状(イレウス,腸管潰瘍などによる腹痛,嘔吐,下痢,消化管出血)などを,それぞれ半数程度伴う。

    【検査所見】

    貧血,好酸球増多やCRP増加に加え,虚血の指標であるLDHやCKの上昇を認める。好酸球増多の程度は様々であるが,血管炎の発症時は30%以上のことが多く,白血球増多も伴う。ただし,既に全身ステロイド療法が併用されている場合,稀に好酸球増多が目立たないケースもある。さらに2/3の症例では,血清総IgE値の著増,RA因子陽性化,血小板数増加を認める。

    従来,強調された抗好中球抗体であるMPO-ANCA(P-ANCA)のEGPAにおける陽性率は,近年ではそれほど高くないことが判明し,30~40%にとどまる。一方,PR3-ANCA(C-ANCA)は,GPAと異なり陽性化する例は数%以下である。

    心臓障害は特に予後に関連するため,症状がなくても十分に精査する(UCG,血清BNP,ホルター心電図,そのほか各種シンチ)。

    【診断】

    診断方法として,厚生省難治性血管炎分科会の診断基準(2)と,American College of Rheumatology(ACR)の分類基準2)がよく用いられる。

    11_17_好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA):…

    ACRのものは,①喘息もしくはアレルギー疾患の既往(ただし,薬剤アレルギーは除く),②末梢血で10%以上の好酸球増多,③単または多発神経炎,④固定しない肺浸潤影,⑤副鼻腔異常,⑥生検での血管外好酸球浸潤の証明,の6項目中4項目以上満たしたものをCSS(EGPA)としている。この基準の由来は,血管炎症状を呈している症例から, EGPAを的確に抽出するための目的に作成されている。血管炎と判明した例において,この6項目中4項目を満たした場合のCSS(EGPA)診断の感度は85%,特異度は99.7%とされる。ただし,もともと好酸球増多や副鼻腔異常を伴うことが多い喘息患者からの診断が想定されていないため,EGPAを正確に診断する場合,過剰診断となりやすい。よって,ACRの分類基準で診断する場合は,臓器の虚血症状や血管炎の組織所見を確認できない場合は慎重に判断する。

    厚生労働省難治性血管炎分科会による診断方法2)がより現実的である。ただし,血管炎の症状の定義が定められておらず,くすぶり例や非典型例では診断が難しい。また,「先行する喘息もしくはアレルギー性鼻炎」と記載されているが,EGPAでは,純粋のアトピー因子は少なく,非アトピー主体であり,典型的なアレルギー性鼻炎は少なく,むしろ「鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎(嗅覚低下を伴う)」を重視すべきであるという意見もある。

    EGPAの90%以上は,好酸球増多が目立つ重症喘息+好酸球性副鼻腔炎患者から発症する。好酸球性副鼻腔炎は鼻ポリープ(鼻茸)を伴いやすく,その主症状は嗅覚低下である。この鼻茸合併は,好酸球増多症候群(hypereosinophilic syndrome:HES)との鑑別に役立つ。

    血管炎発症時の典型的症状は,急性発症の発熱や急速な血管炎症状である,筋肉痛,体重減少,軽度浮腫,関節痛に加え,特に四肢末梢の痺れや筋力低下をほとんどの症例で認めるのが特徴であり,同時に著明な末梢血好酸球増多を伴う。

    EGPA患者の一部は,発症症状や経過が典型的でない。喘鳴などの典型的な喘息症状がないままに好酸球増多と血管炎症状から発症し,その後の経過中に典型的な喘息症状がそろうケースが少数ある。また,EGPAのほとんどで認める末梢神経炎や末梢血好酸球増多を認めない症例も少数ある。発症経過では,数年にわたり診断基準を満たさない程度の,軽度の血管炎症状の消退を繰り返す「くすぶり型」も時に存在する。その一方で,血管炎発症1~3週間で致死的な虚血による消化管障害(消化管穿孔やイレウス)や心障害(不整脈,心不全),心停止を呈する劇症型も数%存在する。また,MPAやGPAとの境界例の報告もあり,さらに臓器障害が限局しているEGPA疑い例の報告も散見される。

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