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ハンチントン病

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-16
長谷川一子 (相模原病院神経内科医長)
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  • ■疾患メモ

    ハンチントン病の名称は1872年にGeorge Huntington1)が遺伝性,成人発症,慢性進行性の舞踏運動と精神症状,自殺傾向を主徴とする疾患の詳細な臨床報告を行ったことに由来する。

    ハンチントン病は浸透率の高い優性遺伝様式を示す進行性の神経変性疾患である。

    病因遺伝子はHuntingtinHTT)遺伝子2)でCAGの36回以上の伸長による。

    CAGはグルタミンをコードしているため,ポリグルタミン病と総称される。

    ポリグルタミン病の1つで,表現促進現象(anti-cipation)があり,男性で著しい。

    遺伝子産物はhuntingtinと呼ばれ,全身で発現しているが,機能は明らかではない。

    ハンチントン病のわが国の有病率は0.7/10万人で,全国で1000人未満と推定される。

    発症年齢は幼児から老齢期まで様々であるが,30~40歳代が多い。

    主症状は舞踏運動などの不随意運動と精神症状,認知障害である。

    罹病期間は15年程度である。

    治療薬には舞踏運動にはテトラベナジンが,精神症状には抗精神病薬が使用される。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    症状についてはを参照されたい3)4)

    08_19_ハンチントン病

    〈初発症状〉

    運動症状,精神症状,もしくは両者で発症する。

    運動症状では協調運動の微細な障害と軽微な不随意運動,遂行運動の障害を認めるのみで,"くせ"とか"落ちつきがない"とみなされることが多い。

    衝動性眼球運動系〔眼球運動失行(ocular motor apraxia)に類似する〕や舌の持続挺出障害(motor imper-sistence)の頻度が高い。

    〈運動症状〉

    早期から中期に舞踏運動が顕在化する。舞踏運動は顔面,四肢,体幹のどこでも観察できるが,手指,顔面に目立つ。舞踏運動は不規則,非定型で素早い運動であるが,症例ごとには比較的定型的である。

    脳神経系では顔面の舞踏運動(顔しかめ運動,grimacing)とともに舌,咽頭喉頭の運動が阻害され,発声や発語のコントロール障害,嚥下障害をきたす。

    筋トーヌスは低下~亢進まで様々で,深部反射は亢進することが多い。

    不随意運動は舞踏運動のみならず,ジストニアやアテトーシス,振戦,ミオクローヌスが混在することが多く,合併頻度が高いのはジストニアである。

    歩行は舞踏運動やジストニアを伴うものの,中期頃までは可能であるが,不随意運動と持続運動困難により転倒,把持持続困難,打撲などの外傷が頻発する。

    体幹四肢の運動障害に構音・構語障害,嚥下障害も加わり,日常生活すべてに要介助となる。

    最終的には臥床状態となり,経口摂取不能,無言,合目的運動が不能となる。

    〈精神症状〉

    社会生活を著しく阻害する因子であり,運動症状の発現前にみられることもある。

    前頭葉・側頭葉型の認知障害に分類される。

    中核症状は人格の変化と認知機能障害で,これに感情面では情動の不安定さ,短気,易刺激性,不機嫌,アパシーなどを様々な程度で示す。

    易疲労性,不眠,うつ状態も頻度が高い。

    進行すると,衝動性行動障害・強迫性行動障害や感情の不安定さ,共感の欠如が明らかとなる。衝動性・強迫性行動は食欲や性欲,発声(叫ぶ)などでみられやすく,これらの行為を中止させようとしたり,注意したりすると暴力的になることもある。

    問題となる精神症状は易刺激性と攻撃性,敵対行動,固執で,社会生活や家庭生活の継続困難の要因となりやすい。

    自殺企図が比較的多く,疾患罹患へ反応性のもの,うつに関連するもの,自己効力感消失に伴うもの,衝動行為としての自殺企図とがある。

    感情障害はうつのみならず,頻度は低いが躁もみられる。

    睡眠障害も比較的頻度が高く,通常の睡眠薬導入剤では難治性のこともある。睡眠障害のメカニズムについては不明なことが多い。

    認知障害4)5)の特徴として,遂行機能障害,作業記憶の障害,注意障害,視空間認知障害がある。遂行機能障害の構成要素の中ではプランニング,問題解決能力,柔軟性が早期から障害されやすい。

    経過に伴い記銘力低下,判断力低下,学習能力低下が目立つようになる。

    保続がみられることが多く,思考の柔軟性,思考の構築が障害される。注意力の低下,説明能力の低下,思考の階層性や論理性の低下もみられる。

    病状が進行すると失外套状態となる。

    〈若年型ハンチントン病〉5)

    幼児期に発症したハンチントン病では多くの場合,舞踏運動は発現しない。

    両親のいずれかが未発症の場合も少なくなく,診断が困難なことが多い。

    固縮・無動を示す群:Westphal variantは若年型ハンチントン病の半数を占める。

    てんかん発作が初発症状のこともあり,他の精神発達遅滞をきたす疾患との鑑別が必要である。

    てんかん発作は1/3の症例で認められ,成人発症での2~3%と対照的である。

    発症時の精神症状として学業成績の低下,特に幼児期では精神発達遅滞,運動症状として巧緻障害,構音・構語障害などがある。

    小脳症状が目立つ症例も多く,小脳失調症と誤診されることもある。

    精神症状では自閉症様の行動障害,学習障害,注意欠損,摂食障害がある。

    自殺企図の頻度や薬物中毒も成人型よりも高い。

    統合失調症と誤診されることもある。choreopathyとも呼ばれる。妄想が3~11%でみられる。聴性幻覚も稀にみられる。

    【検査所見】

    一般血液・生化学検査では著変を認めない。

    心理検査では前頭葉機能障害,感情障害,認知機能の全般的低下を認める。

    経過観察にMMSE(Mini Mental State Examination),FAB(Frontal Assessment Battery),統一ハンチントン病尺度(Unified Huntington's Disease Rating Scale:UHDRS)などが使用される。そのほかストループ課題,ウィスコンシンカードソーティングテスト,ロンドン塔課題,ギャンブル課題も使用される。

    画像診断では尾状核に強調される全脳萎縮を認める()。

    08_19_ハンチントン病

    脳血流シンチグラムでは前頭・側頭葉型の血流低下を認める。

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