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骨髄腫腎

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-07-26
鈴木洋通 (武蔵野徳洲会病院院長/埼玉医科大学名誉教授)
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  • ■疾患メモ

    多発性骨髄腫は血液系悪性腫瘍で,形質細胞の単クローン性の増殖により免疫グロブリンが過剰に産生された結果もたらされる疾患である。わが国では10万人あたり3人の発症率とされ,悪性リンパ腫についで多い血液系悪性腫瘍である。診断基準としては国際骨髄腫作業部会(IMWG)によるものが用いられる(1)

    ではそれぞれが独立した疾患のような印象を与えるが,MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)から様々な骨髄腫の形態が出てくるという説もあり,いまだ病因に関しては十分には解明されているとは言えない。この中で腎臓に関連してくるのは症候性多発性骨髄腫である。症候性多発性骨髄腫は臨床症状が多彩である。

    07_17_骨髄腫腎

    骨髄腫による腎障害は大きく2つに分けられる。1つは高カルシウム血症により多尿となり,それが脱水につながり,主として腎前性の急性腎障害を発症する。この場合,しばしば非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の使用や,造影剤による検査が引き金となる症例がみられる。もう1つは糸球体より濾過された免疫グロブリンの軽鎖が近位尿細管で再吸収され,その結果炎症性サイトカイン(IL-6, IL-8, MCP-1)が産生され,間質の線維化を引き起こす。また,さらに再吸収されない軽鎖が遠位尿細管でTamm-Horsfall蛋白(主に曲尿細管の上行脚で分泌)と結合し,円柱腎症(cast nephropathy)を引き起こす。

    ■代表的症状・検査所見2)3)

    【症状】

    骨の痛み:一般に椎骨と肋骨に痛みがみられることが多い。高齢者では腰痛は骨髄腫を疑うことが大切である。肋骨ではしばしば病的骨折をきたし,また椎骨の圧迫骨折が初発症状となることがある。

    貧血:一般に正球性・正色素性貧血である。骨髄での赤血球産生がサイトカインを介して抑制されることによるとされる。

    高カルシウム血症による症状:腫瘍細胞から放出されるIL-6によって活性化された破骨細胞が骨を吸収・破壊する結果,高カルシウム血症が生じる。高カルシウム血症は食欲不振,多尿などを起こし,疲労感や脱力感といった不定症状がみられることが多い。

    頭痛:過剰に産生されるグロブリン蛋白により血液の粘稠度が高くなり,頭痛や視力障害を生じることがある。

    【検査所見】

    検尿:蛋白尿が主体で血尿はほとんどみられない。また尿沈渣では円柱がみられるが,顆粒円柱の出現は少ない。ベンスジョーンズ蛋白(Bence-Jones protein:BJP)は免疫グロブリンの軽鎖からなり,分子構造が小さいため尿に出やすいので骨髄腫が疑われる場合には必須の検査である。

    血算・血液像:一般に正球性・正色素性貧血を呈することが多い。貧血のレベルとしては,年齢や性差にも関連するが重症な貧血で見つかることは少ない。

    凝固検査:一般には凝固異常を示すことは少ない。

    生化学・免疫検査:血清蛋白分画でM蛋白検出を行う。一般にγグロブリン分画にM蛋白が出現するが,IgA型骨髄腫ではβ分画にピークがくることがあるので注意が必要である。BJP型,IgD型では出現する量が少ないことも関連してピークが認められず,正常免疫グロブリン低下に伴いγグロブリン分画の平低化がみられることが多く,1つの骨髄腫発見へのヒントになる。さらにM蛋白が見つかったら血清免疫電気泳動法でM蛋白の確認を行う。

    LDH,BUN,クレアチニン,カルシウム,アルブミンは骨髄腫の進行度や腎障害の有無を見つけ出すのに役立つ。CRPは感染症がなくても活動性の骨髄腫で上昇するので注意が必要である。β2ミクログロブリンは骨髄腫によって上昇し,病気の予後推定の重要な指標である。さらに診断が確定したら免疫グロブリン定量(IgG,IgA,IgD,IgM,IgE),血清遊離軽鎖定量およびκ/λ比を測定する。

    骨代謝マーカー(尿中デオキシピリジノリン,血清NTx,尿CTx,骨型アルカリホスファターゼ,オステオカルシン)。※保険適用に注意

    放射線検査:骨病変は溶骨病変が主である。骨病変の評価には単純X線検査で十分であり,特徴的な所見として打ち抜き像(punched-out lesion)がある。これは骨髄腫細胞が骨芽細胞の作用を抑制し,骨融解をきたした病変部位において骨形成を生じさせないことにより形成される。腰痛では脊椎骨の圧迫骨折,骨痛では肋骨の骨融解がよくみられる。最近ではCT(マルチスライスCTにより全身撮影が一度で可能)あるいはMRIも積極的に用いられる。

    骨髄生検:骨髄穿刺,生検により骨髄腫細胞の増殖を確認し,補助診断として細胞表面形質分析が有用となることもある。

    染色体検査:fluorescence in situ hybridization(FISH)法の導入によって骨髄腫の染色体解析が行われており,代表的な染色体異常としてt(11;14),t(4;14),t(8;14),del(13),del(17)がある。

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