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小腸出血

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
大宮直木 (藤田保健衛生大学消化管内科教授)
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  • ■疾患メモ

    十二指腸主乳頭肛門側から回腸末端までの小腸出血をmid-gastrointestinal bleeding(mid-GI bleeding)と称する。

    上部消化管・大腸内視鏡検査で異常のない原因不明の消化管出血はOGIB(obscure gastrointestinal bleeding)と呼ばれ,潜在性出血(occult bleeding)と顕出血(overt bleeding)に分類される。mid-GI bleedingはOGIBの主体を占める。

    近年,カプセル内視鏡やバルーン内視鏡による全小腸内視鏡観察で的確な小腸出血性病変の部位の同定や診断が可能となった。

    小腸出血性病変は血管性病変,医原性病変(薬剤性,放射線性小腸傷害),炎症性病変,腫瘍・腫瘍性病変,憩室など多彩である。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    吐血は,Treitz靱帯より口側の出血を示唆する有用な所見である。

    便の色(黒色,暗赤色,鮮血)は消化管通過時間によって変化するため有用でないという意見もあるが,わが国におけるOGIBを対象としたダブルバルーン内視鏡の多施設共同研究では,黒色便は上部消化管~回腸病変が多く,暗赤色~鮮血便は回腸~肛門出血が多かったと報告している1)。ただし,十二指腸・空腸からの大量出血では鮮血便に,回腸からの微量出血で便秘の場合は黒色便になるので注意が必要である。

    腹痛や腹部膨満といった腹部症状は腫瘍性病変やクローン病,腸結核等の炎症性病変による狭窄・重積を示唆する。高度な腹痛を伴う場合は下肢の紫斑の有無を確認し,IgA血管炎による小腸病変を鑑別すべきである。

    既往に結核罹患歴があれば,腸結核の合併を念頭に置く。また,肺癌をはじめ他臓器に進行癌の既往があれば転移性小腸腫瘍を念頭に置く。慢性腎不全(特に透析期),肝硬変等による門脈圧亢進症や弁膜症,心不全,虚血性心疾患などの心疾患があれば,血管性病変の合併頻度が高い2)。若年より反復する鼻出血およびそのような家族歴を有する場合は,遺伝性出血性末梢血管拡張症〔ランデュ・オースラー・ウェーバー(Rendu-Osler-Weber)病〕を疑う。

    薬剤使用歴を詳細に問診し,アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やカリウム製剤,抗癌剤を使用している場合は薬剤起因性小腸傷害を疑う。

    【検査所見】

    身体所見上,口唇・指趾の色素沈着が認められ,腸重積の既往,およびそのような家族歴を有する場合はポイツ・イエーガー(Peutz-Jeghers)症候群によるポリープからの出血を疑う。皮膚の神経線維腫症,カフェオレ斑,およびそのような家族歴を有する場合はレックリングハウゼン(von Recklinghausen)病に合併するGIST〔消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor)〕の合併を念頭に置く。

    OGIBを発見したら,まずは緊急検査に対応でき,分解能も良い胸部~骨盤部CT検査を行う。造影剤アレルギーや腎障害がなければ造影(できればダイナミック)CTを行い,小腸壁および壁外情報,小腸外病変(肺病変,他臓器の腫瘍の有無等)を調べる。

    CTで異常が見つかれば,病変に近い経路からバルーン内視鏡を行う。

    腹部造影CTで異常がなく,顕出血が持続している場合や潜在性出血の場合(occult bleeding)はカプセル内視鏡が病変部位の同定に有用である。特に若年者でクローン病が疑われる場合や,腸閉塞の既往,腹痛・腹部膨満症状を有する場合,NSAIDs長期使用歴,腹部放射線照射歴,腹部手術歴のある場合はカプセル滞留の危険性があるため,カプセル内視鏡の前にパテンシーカプセルで開通性を確認することが望ましい。若年者でメッケル憩室が疑われる場合は,カプセル内視鏡で見落とすことがあるので注意が必要である。

    乳幼児などの年少者では,メッケル憩室出血の可能性を考慮し,侵襲の少ない異所性胃粘膜シンチグラフィ(メッケルシンチ)を行う3)

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