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「新型コロナウイルス」関連コメント〜【識者の眼】より〜

2020年2月20日報道資料
▶厚生労働省職員1名及び内閣官房職員1名が感染:クルーズ船に関連した新型コロナウイルス感染者について
▶80代2名死亡:横浜港で検疫中のクルーズ船に関連した患者の死亡について

2020年2月19日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(60~69例目)
▶陽性確認は延べ3011名中621名:横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第13報)
▶国内外の発生状況:新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月19日版)

2020年2月18日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(54~59例目)
▶横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第12報)
▶国内外の発生状況:新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月18日版)

「COVID-19はSARSに類似(2)─インフルエンザに比べはるかに重い疾患」
菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は国内での流行も危惧される状況になった。国内での人から人への感染が進行しているにもかかわらず、日本政府が中国からの入国を禁止しなかったことは、COVID-19の感染性、重症度を過小評価した重大な失策と考えられる。すでに水際対策の段階は越えて、日本各地にウイルスが蔓延している可能性がある。

 常識に反した報道

日本のマスコミが一貫して、重症度は低いと報道してきたことも、わが国の対策の遅れに影響したと考えられる。国内初のCOVID-19死亡例が報告された2月13日以後も、依然としてマスコミで流れているのは、COVID-19は季節性インフルエンザ程度の感染症であり、恐れることはないという論調である。これは明らかな誤りである。
常識で考えても、季節性インフルエンザ程度の致死率、重症度の疾患であれば、世界保健機関(WHO)が非常事態宣言をすることはないし、中国が莫大な経済的な損失にもかかわらず、大規模な都市封鎖を実施するわけがない。米国、シンガポール、台湾等では、中国からの入国禁止を実施しているが、常識で考えれば、季節性インフルエンザ程度の感染症でこのような対策がとられるわけがない。

 COVID-19と2009年ブタインフルエンザ(H1N1pdm09)

死亡率は現時点で、中国全体では2%程度であるが、湖北省を除いた中国では、0.2%と10分の1程度に低下する。2009年のブタインフルエンザのパンデミックで、日本では2000万人以上の患者発生があったにもかかわらず、わずか200例の死亡者しか報告されていない。死亡率は0.001%、10万人に1人に過ぎない。湖北省を除いた中国のCOVID-19の死亡率0.2%は、2009年のH1N1パンデミック時の日本の死亡率に比べて200倍高い。

 COVID-19とスペインかぜ

世界史上、最大の死亡者が出た感染症は、1918年のスペインかぜ(インフルエンザのパンデミック)であった。この時の死亡率は、欧米や日本では1〜2%程度であった。日本では、当時の人口5400万人の約半数が罹患した。内務省の1917〜19年までの報告では、2380万人が罹患して、38万9000人の死亡が報告された。死亡率は1.6%である。現時点でのCOVID-19の死亡率は、中国全体で2.2%であるが、前回(No.4998「新型コロナウイルス感染症はSARSに類似、厳重な警戒が必要」)に書いたように、「それをもって、COVID-19の死亡率が低いと報道されているのは誤りである。1918年の悪名高いスペインかぜの死亡率は、欧米諸国や日本では、1〜2%であった。COVID-19の死亡率は、スペインかぜ並みに高いと報道するのが、医学的に正しい」ということになる。

 COVID-19、日本の重症例(厚労省ホームページ2月14日)

2月13日に日本で初めて死亡例が確認されたが、日本国内の発症例30例でみると、3.3%(1/30例)の死亡率となる。さらに、ICUに収容されて人工呼吸器で治療されている重症例も、札幌、和歌山などから報告されているので、重症化しやすいことが示唆されている。横浜のクルーズ船の218症例では、現時点では死亡例は出ていないが、少なくとも2例のICU入院患者が報告され、他に8例の重症者がいる。ここでも、重症化しやすい感染症であることが明らかで、季節性インフルエンザと同等の重症度とは思えない。2月14日現在、日本の全症例248例では死亡1例で、率にすると0.4%となる。
スペインかぜでも、少なくとも80%の患者は普通の、いわば軽症のインフルエンザの経過であったと言われている。日本国内で40万人近い死亡者が出たスペインかぜであっても、80%の患者では軽症であった。COVID-19で軽症が多いのは不思議なことではないし、安全安心情報ではない。軽症の患者群から、感染が拡大するからである。WHOの推測ではCOVID-19感染者のうち、①82%が軽症、②15%が重症、③3%が重篤と報道されている(https://www.bbc.com/news/health-51048366)。
3%の患者が重篤になる感染症を、季節性インフルエンザと同等とすることはできない。

 COVID-19と季節性インフルエンザ

季節性インフルエンザでの死亡は、ほとんどが高齢者である。日本の人口動態統計でインフルエンザ死亡をみると、インフルエンザ患者数が多かった2018年には3240人の死亡数であり、その年の患者数は、約1500万〜2000万人と報告されているので(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1718.pdf)、それを分母にすると、0.016〜0.022%の死亡率となる。湖北省を除いた中国の死亡率0.2%は、日本の季節性インフルエンザの10倍の死亡率となる。ただし、この0.2%は、中国政府による、徹底的な外出禁止、映画館、劇場、食堂の閉鎖、都市全体の封鎖により患者発生を抑え、医療体制を十分に整えて達成された数値である。現状の何ら対策のない日本では、さらに高い死亡率になる可能性がある。

 COVID-19と医療従事者の院内感染

COVID-19がインフルエンザと比べ、はるかに深刻な疾患であることの明白な証拠は、高い院内感染率である。中国の国家衛生健康委員会(National Health Commission)は、2月14日、COVID-19により、これまでに医療従事者6人が死亡したと発表した。日本でも多数の医療従事者が毎年インフルエンザに罹患しているが、死亡例は、全国でもほとんど聞いたことがない。 武漢の大学病院でのCOVID-19患者138例の入院例の中で、57例(41%)が院内感染であることが、最近、JAMA誌に報告された。驚くべき事に、院内感染で入院した57例中40例、全体の29%(40/138例)は医療従事者であった(Wang D, et al:JAMA. 2020.)。https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761044
高い医療レベルの大学病院でも〔ICU患者の一部を体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)で治療している事が記載されている〕、高率に医療従事者が院内感染して入院していることから、COVID-19を季節性インフルエンザ程度とみることは危険であるし、医療関係者にとって誤情報であるとも言えよう。

 おわりに:オリンピックは大丈夫か?

現在、日本国内でもCOVID-19の流行が始まりつつある深刻な状況を迎えている。ノイラミニダーゼ阻害薬のあるインフルエンザと、診断キットも治療薬もないCOVID-19とは、国民、特に医療関係者の不安感は比較にならない。特に、JAMA誌に掲載された院内感染の報告のインパクトは強く、今後、国内で流行が拡大すると、多くの病院が院内感染により、機能が低下する可能性も考えられる。
先日、国際的に高名なインフルエンザ学者と話した際に、彼は、東京オリンピック開催は危ういという意見であった。夏になると、コロナウイルス、そしてCOVID-19は流行の勢いを失うからオリンピックは大丈夫という意見に対して、日本が夏になると、ブラジルやアルゼンチンなど南半球諸国は冬になり、そこで活発化するCOVID-19の流行が、選手団、観客と共に東京オリンピックに持ち込まれるのではないかという、インフルエンザ専門家らしい意見であった。オリンピックを無事に開催するためには、日本国内の流行を抑えるだけでなく、南半球での流行状況を観察して綿密な対策が必要となる。

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2020年2月17日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(神奈川県、和歌山県、愛知県)
▶国内外の発生状況:新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月17日版)
▶陽性確認は延べ1723名中454名:横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第11報)

2020年2月16日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(東京都、愛知県)
▶横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第10報)

2020年2月15日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生(43例目)について
▶新たに67名の陽性確認:横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第9報)
▶和歌山県で新たに3名が感染:型コロナウイルスに関連した患者(38、39、40例目)の発生について

2020年2月14日報道資料
▶患者搬送の自治体職員1名が感染:新型コロナウイルスに関連した患者の発生について
▶5自治体より6名の感染報告:新型コロナウイルスに関連した患者の発生について
▶宿泊施設に宿泊中の第3便145名中陽性は1名:新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の検査結果について
▶国内外の発生状況:新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月14日版)

「新型コロナウイルス感染症による『隔離』処遇が適切に行われることを願って」
堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)
新型コロナウイルス感染症が注目を集めています。精神科医の立場から一つ気になるテーマを見つけました。医学的な名目で行われる、人間の「隔離」処遇についてです。
現在、横浜港には大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が検疫のために停船を指示され、その中には約2700人の乗客と約1000人の乗務員がいるそうです。船内での感染の拡大が危惧される状況で、乗客の中の約1400人は日本以外の国の住民であるため、アメリカをはじめとした諸外国は、自国民にどのような処遇が行われるかを注視している状況と聞いています。
「隔離」は社会防衛と個人の人権が激しく葛藤を起こす事態であり、医学的な評価・介入はもとより、法的・社会的な面を含めた総合的な判断と実践を求められる措置です。しかし残念ながら日本社会には、この「隔離」を不適切に使用してしまった過去があります。精神科病院への精神障害者の長期入院の問題です。詳細は割愛しますが、1955年に約4万4000床だった精神科病床は、その後、精神科病院において患者が職員の暴力によって死亡するような事件が問題となったのにもかかわらず、1993年には約36万床にまで増加しました。最近は相当に短くなったものの、以前には数十年という単位で入院した患者さんも珍しくありませんでした。この精神科病院への長期入院の問題は十分に検証されないまま、現在に至っています。
私は日本社会で「隔離」が不適切に行われやすい背景に、日本社会での人間関係の特徴があると考えています。「外の人としてよそよそしく接する」か、「身内の上下関係に巻き込んで下に見る、あるいは上として仰ぎ奉る」かのどちらかに傾きやすく、基本的人権を尊重するというグローバルな形式を重んじて対等な関係を構築することが苦手です。
私は日本社会がこの弱点を乗り越え、今回のような「隔離」処遇が適切に行われることを願ってやみません。

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「新型コロナウイルス感染症:『怪しい民間療法』と『不安・恐怖』は表裏一体」
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
新型コロナウイルス感染症の話題が、連日テレビのトップニュースで報道されている。そして、国民感情としては、パニックとまではいかなくても浮足立っている状況になっているのではないだろうか?
このように国全体が不安に襲われているような状況に際して、きまって便乗してくるのが、怪しい民間療法である。「ニンニクを食べると感染予防になる」「ゴマ油を塗ると予防できる」など根拠のない大量の情報が拡散している現状を、世界保健機構(WHO)は「インフォデミック(Infodemic:情報の伝染という意味のinformation epidemicを短縮した言葉)」と指摘している。
今回、なぜインフォデミックのような状況が起こるのか、そして解決策はあるのかについて考えてみたい。
まずは、民間療法で商売をする立場の視点で考えてみる。健康に良いとされる商品の販売方法にはパターンがあるとされる。①ものごとを白黒つける・単純化する、②感情を揺さぶる(不安・恐怖)、③都合よく願いを叶える商品の販売─といったものである。具体的には、「年をとると免疫力が下がる(①単純化)」「免疫力が下がると病気になる(②不安・恐怖)」「このサプリを飲んで免疫力をアップして病気知らず!(③都合よく願いを叶える)」となる。そもそも「免疫力」という言葉そのものが医学用語ではないのだが、商業用にキャッチーなフレーズとして広く受け入れられている現状がある。そのほかにも「アンチエイジング」「腸活」など類似のフレーズは枚挙にいとまがない。つまるところ、多くの民間療法は、人の不安や恐怖といった感情と抱き合わせで販売されている。そこで、新型コロナウイルス感染症の報道が繰り返され、国民の多くが不安や恐怖に襲われている今のような状況は、商売をする側からすれば絶好の機会になるわけである。
次に、情報の受け手であり消費者にもなりうる立場で考えてみる。行動経済学分野におけるプロスペクト理論では、人は損失を回避する傾向(損失回避バイアス)があり、危機的状況に置かれるとリスクテイカーになることが指摘されている。新型コロナウイルス感染症に関して言えば、国民の多くが、少しでも感染を避けるための行動をしやすい傾向にあり、不確かな情報であっても試してみようという傾向(リスクテイカー)に陥っている可能性がある。
では、民間療法側に有利で国民側に不利な状況における解決策はあるのだろうか? 筆者自身、「怪しい民間療法にだまされないためには、これだけ注意すれば大丈夫!」といった特効薬のような解決策は残念ながら持ち合わせていない。ただ、解決策の一つになるのではないかと期待していることはある。
2017年に東京都が報告した「健康と保健医療に関する世論調査」によると、健康や医療に関する情報の入手方法は「テレビ」が78%と圧倒的な割合を占めている。つまり、テレビを通じて、新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報がわかりやすく解説され、世の中に出回っている不確かな情報に関する注意喚起が繰り返し伝えられることで、怪しい民間療法に騙される国民が減るのではないかと考える。地味で退屈な報道になってしまう(視聴率もとれない)かもしれない。しかし、視聴率重視で国民の不安を煽るようなセンセーショナルな報道は、怪しい民間療法に騙される国民を増やすことに加担しているということにもなりかねない。他人任せの解決策になってしまうが、メディアの矜持に期待したい。

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2020年2月13日報道資料
▶20代男性 渡航歴なし:新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(30例目)
▶50代男性 医師:新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(29例目)
▶70代男性 渡航歴なし:新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(28例目)
▶80代女性 死亡:新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(27例目)
▶宿泊施設に宿泊中の第2便199名は全員陰性:新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の検査結果について
▶検査陽性は延べ713名中218名:横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第8報)

「新型コロナウイルス:国内の次の『Xデー』に備える」
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
新型コロナウイルスについて、国内での次の「Xデー」に備えておかなければならない。
日本国内で、中国に渡航または居住していた方との接触がない方の新型コロナウイルスの感染が確認されたら、それはその方の住んでいる地域において感染が拡大している可能性を示唆することになる。この段階で国内での対策は一段階レベルが上がる。
そうした場合に何がその地域で起きるのか。2009年の新型インフルエンザ流行の際には、その地域において祭りなど人の集まるイベントの中止、学校の休校が行われ、さらに感染者への不合理な批判なども聞かれた。 国内で、新型コロナウイルスの検査態勢の拡充を求める声もあるが、こうした事態が起こりえることも我々は想定しておかなければならない。
そして、2009年の新型インフルエンザ流行時の対応と今回が異なるのは、日本が世界からどう見られているか─という点である。すでに、日本の感染者の数はクルーズ船の感染者も含めると中国本土以外の国と比較すると最も多い国である。こうしたことから、中国本土を対象に入国制限などを行っている国々が、日本国内での感染者確認により日本も入国制限の対象にする可能性があることを危惧している。日本の状況は、より正確に海外へも発信しなければならない。
いつまで対策を強化するのかも課題だ。感染症対策は、感染力と、感染した場合の重症度で評価することとなる。報道によると、日本では、クルーズ船の174名を含めると203名の感染が検査で確認された(2月12日時点)。日本の医療レベルの治療を受けた場合に死亡率がどうなるかという情報を多くの先進国が注目しているところである。
また、国内での感染例が確認された場合に、現在の「水際対策」をどうするのかも柔軟に見直す必要が出てくる。対策を厳しくすることはそれほど難しくないが、緩和するのはとても難しい。2009年の際には国会で議論になったことが思い出される。
Xデーに備えて、実際に、その地域でイベントの中止や学校の休校をするのか。出張の中止などをするのか。トラックの運転手などがその地域に行くことを拒否するなどして物流が滞ることがないのか。この段階から議論しておかなければならない。
この後、新型コロナウイルスの話題がいつまで続くかはわからないが、東京五輪・パラリンピックまではくすぶると予想される。冷静で確実な対応を実施して、世界に日本の力を発信したい。

2020年2月12日報道資料
▶国内外の発生状況一覧:新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月12日版)
▶ホテル滞在中の第1便帰国邦人197名は全員陰性:新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の検査結果について
▶新たに39名の陽性を確認:横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第7報)
▶検疫官1名が新型コロナウイルスに感染

2020年2月11日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(25例目)
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(24例目)

2020年2月10日報道資料
▶横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第6報)
▶新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月10日版)

2020年2月9日報道資料
▶横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第5報)

2020年2月8日報道資料
▶横浜港に寄港したクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症について(第4報)

2020年2月7日報道資料
▶新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月7日版)
▶新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人等の状況について

識者コメント及び報道資料一覧(新着順)

「産業医のための新型コロナウイルス対策:一般企業でも『まん延期』の話をしよう」
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
そろそろ、この段階で、新型コロナウイルスの感染が国内の多数の地域で確認される「まん延期」となった場合の一般企業の対応として、手洗い等の職員個人の感染予防策に加えて、追加で検討すべき感染対策ご紹介します。

 1. 自宅待機させるべき職員の基準

新型コロナウイルスは軽症者が多く、検査もインフルエンザのように簡易キットがあるわけではないので判断が難しくなりそうです。重症者で検査に至り新型コロナウイルスが陽性となった場合には、濃厚接触者は潜伏期間などを勘案して休みにするでしょうか。一方で、有給にするのか、それとも会社指示とするのかなどは2009年の新型インフルエンザ流行時と同様に議論になるところです。2009年は一時的に同居家族にインフルエンザ感染があった場合には職員の出勤を停止とした企業もありました。濃厚接触者は誰か、自宅待機の日数は何日なのかは悩ましいです。
また、くれぐれも企業として新型コロナウイルスの陰性証明や治癒証明などを医療機関に求めたりしないように、衛生委員会などで確認してください。

 2. 時差出勤などの対応の実施

満員電車やバスの車中は感染者がいた場合には感染リスクがやや高くなります。満員電車やバスに乗車することを不安に思う職員もいるでしょう。今後、時差出勤やテレワークを許可するかどうかを考える必要があるかもしれません。これは事業所の近隣地域で感染が確認された場合、特に初期には必要となる対策かもしれません。ただ、実際にこの対策を行うには「この部署はいいけど、あの部署はだめ」という不公平感なども課題になりそうです。

 3. 地域において流行を拡大させる事業の自粛や縮小

すでに感染者の出ている奈良県などでは、観光客の激減が報告されています。かつて、2009年の新型インフルエンザでは初期に流行が確認された神戸市では「神戸まつり」を中止にし、さらに学校の閉鎖が行われました。もし事業所のある地域で感染拡大が明らかになった場合に、こうした感染を拡大させるようなイベントなどの事業の中止ということも想定しておくことは必要です。また、学校の閉鎖があれば小さな子供がいる親は出勤できなくなる可能性もあります。
大事なことは、これらの措置を行うにしても「いつ止めるか」ということも考えて始めることです。また様々な副次的な影響も考慮して意思決定する必要があります。

【参考】
▶ 和田耕治, 他:新型インフルエンザ発生時に企業に必要な感染対策に関する意思決定とそのための情報. 産衛誌. 2012;54:77-81. [https://www.jstage.jst.go.jp/article/sangyoeisei/54/2/54_wadai11005/_pdf/-char/ja]

(著者注:22020年2月6日朝の情報を基にしています)

「新型コロナウイルス水際対策はこのままでいいのか、いつまでやるのか」
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
クルーズ船での検疫が話題になるなど水際対策への取材がヒートアップしています。おそらくテレビとしては取材しやすいのでしょう。2009年の新型インフルエンザ流行時の水際対策を超える対応になってきていますが、この対策をいつ緩和するのか考えないといけない時期です。
以下は2010年6月10日に厚生労働省の新型インフルエンザ(A/HlNl)対策総括会議で示された水際対策への教訓です。

①国は、ウイルスの病原性や症状の特徴、国内外での発生状況、諸外国における水際対策の情報等を踏まえ、専門家の意見を基に機動的に水際対策の縮小などの見直しが可能となるようにすべきである。
②水際対策の縮小などの判断が早期に可能となるよう、厚生労働省および国立感染症研究所は、海外における感染症発生動向の早期探知や発生国における感染状況等の情報収集・分析が可能となるような仕組みを構築することが必要である。
③入国者の健康監視については、検疫の効果や保健所の対応能力等も踏まえて効果的・効率的に実施できるよう、感染力だけでなく致死率等健康へのインパクト等を考慮しつつ、健康監視の対象者の範囲を必要最小限とするとともに、その中止の基準を明確にするなど、柔軟な対応を行えるような仕組みとすべきである。
④水際対策の効果については、検疫により感染拡大時期を遅らせる意義はあるとする意見はあるが、その有効性を証明する科学的根拠は明らかでないので、さらに知見を収集することが必要である。また、専門家などからの意見収集の機会を設けるべきである。
⑤「水際対策」との用語については、「侵入を完壁に防ぐための対策」との誤解を与えない観点から、その名称について検討しつつ、その役割について十分な周知が必要である。

日本も含めて、多くの国が今後水際対策をどのように緩和していくのかシナリオを考えなければなりません。おそらく緩和できるのは、日本国内で数百の症例が確認され、重症度なども確認されてからになるでしょう。しかし、現在は軽症例が多く、新型コロナウイルスの検査が身近な医療機関では実施できませんので確認が難しそうです。そのため、国内で感染が広がり、水際対策の効果が限定的と示唆されるのは、肺炎患者でコロナウイルスの検査が陽性とわかり、中国との関連がなかったという症例が出た時となるでしょう。
水際対策だけで医療者が疲弊することがないように適正なリソースの配分をお願いしたいところです。
(著者注:2020年2月5日までの情報を基にしています)

2020年2月5日報道資料
▶国立国際医療研究センター:当院における新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症患者3例の報告
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(21例目)
▶新型コロナウイルスに関連した患者の発生について(20例目)
▶新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月5日版)
2020年2月4日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(19例目)
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(18例目)
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(17例目)
▶新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月4日版)

「新型コロナウイルス感染症はSARSに類似、厳重な警戒が必要」
菅谷憲夫(神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)
2020年1月になって、中国武漢での2019 Novel Coronavirus(2019-nCoV)の流行が大きな問題となっている。しかし、日本政府の対策は遅れ、国内での人から人への感染が明らかになった時点でも、中国の感染地域からの団体観光旅行を放置したのは、2019-nCoVの感染性、重症度を過小評価したと考えられる。日本では、コロナウイルスの重症感染症である重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の患者発生がなく、全く経験のなかったことも原因である。
日本のマスコミは、2019-nCoVの重症度は低いと報道してきた。典型的には以下のような報道がされてきた。例えば、「専門家らは、人から人への感染は限られていると指摘し、国内で感染が広がる危険性はほぼないと冷静な対応を求めている」とか、「国内の人は特別な対策は必要ない。手洗いやマスクなど、インフルエンザの予防策を取れば足りると話す」などである(1月20日時事ドットコムニュース)。このような論説が国内で流布したことは、わが国の対策の遅れに影響したと筆者は感じている。国民は、マスコミの断片的な報道に惑わされ、SARSクラスの重症感染症流行の危機的状況にあることを理解しないままに、国内で感染患者が続発している(2月2日現在)。
医療関係者は、確実な論文を基に、コロナウイルスについて理解、判断すべきであると考え、いくつかの論文内容を解説したい。

 Lancet論文

最近、Lancet誌に、本年1月2日時点での武漢の2019-nCoV入院41例の詳細な報告があった。この論文の最も重要な内容は、武漢の2019-nCoV感染症は、臨床的に、かなりSARSに類似していると指摘している点である(Chaolin Huang, et al:Lancet. 2020.)。 https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2820%2930183-5
言い換えれば、中国では、SARS類似疾患が大流行しているので、武漢のような大都市を封鎖してでも制圧を目指しているのである。中国が共産党政府だから、強制的な大規模な対策を取っているのではない。
論文で取り上げた入院患者41例は、全例が肺炎であった。平均年齢は49歳で、32%の患者が基礎疾患を持っていたが、高血圧も含まれ、日本で報道されているように、高齢者や重いハイリスク患者だけが感染、重症化するわけではない。
死亡者は6例で致死率は14.6%(6/41)であったが、これは、今後、確定診断法が普及して軽症例も明らかになれば、低下していくものと思われる。現在は数%であるが(2.2%、259/11791、2月2日現在)、それをもって、2019-nCoVの致死率が低いと報道されているのは誤りである。1918年の悪名高いスペインかぜ(インフルエンザのパンデミック)の致死率は、欧米諸国や日本では、1〜2%であった。2019-nCoVの致死率は、スペインかぜ並みに高いと報道するのが、医学的に正しい。
2019-nCoV症例はLancet論文ではSARSと似た症状を呈すると報告され、41例中13例(32%)がICU入院となっている。日本では、今のところ重症例が出ていないが、今後、日本でも症例数が増加するに従い、呼吸不全など重症例が出てくると思われる。マスコミ主導で、手洗い、マスク着用により、2019-nCoV感染が防げるような報道がされているが、そのような医学的な根拠は全くない。現状では、治療薬のないSARS類似の重症感染症と認識することが重要である。
初発症状は、発熱(98%)、咳(76%)、筋肉痛、全身倦怠などである。発症後8日で、22例(55%)が呼吸困難を訴えている。ICU入院や人工換気までは、発症後10.5日であり、急性感染症としては、比較的に長い経過で重症化することがわかる。日本では、病院へのアクセスが良いので、多くが発症早期に診断されると思われるが、早期症状が軽症であっても油断できない。
検査所見では、ウイルス感染の特徴である白血球減少症、リンパ球減少症が報告されている。プロカルシトニンは正常であった。入院時の肺炎が、細菌性ではなくて、ウイルス性であることがわかる。本論文では、2019-nCoV感染症の高率のICU入院率、致死率がSARSに類似していることが繰り返し述べられている。
医療関係者への感染も認められ、本論文では、2019-nCoV感染症患者の診察には空気予防策が必要で、N-95マスクなど個人用防護具の装備が強く勧奨されている。サージカルマスク着用だけの診察は危険である。現時点では、陰圧室を備えた環境での診療が、医療従事者への感染を防ぐために必須と筆者は考えている。なお本論文では、抗ウイルス薬の併用を治験していることが述べられている。

 NEJM論文

New England Journal of Medicine誌にも、武漢の2019-nCoV肺炎の疫学的な検討論文が発表された(Qun Li, et al:N Engl J Med. 2020.)。 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001316
2019年12月から本年1月の最初の425例を対象としている。患者の年齢は59歳(中央値)で、潜伏期間は平均5.2日(95%CI:4.1〜7.0)と報告された。また感染力を示す基本再生産数(Basic reproduction number、R0)は、2.2 (95%CI:1.4〜3.9)であった。
基本再生産数は今回、マスコミでも取り上げられているが、SARSやインフルエンザに近く、ワクチンや治療薬がない現在は、国内で流行が起きれば、多数の患者が発生することになる。マスク着用、手洗いを勧奨することは良いのだが、それで感染拡大を防げるという報道は誤りである。
さらに、同じNew England Journal of Medicine誌に、ドイツから潜伏期に感染した症例が報告されている。33歳の健康ドイツ人が1月24日に咳、発熱があり、一時39度まで発熱したが、26日には回復し1月27日に仕事に戻った。この時点で、2019-nCoVと診断された。この患者は1月20日、21日に上海から来たビジネスパートナーと会社で会った。ビジネスパートナーは、この会合時は無症状であり、翌日、ドイツから上海へ帰国の機内で発症し、1月26日に上海で2019-nCoVと確診された。1月28日には、ドイツで、さらに3名が発症した。
潜伏期といえども、発症の前日であり、感染性があるのは十分に理解できる。さらに2019-nCoVが強い感染力を持つことに驚かされる。上海からのビジネスパートナー(Index case)から、4名のドイツ人が発症している。また33歳のドイツ人の検体からは、仕事に戻った時点でも、108/mLと高濃度のコロナウイルスが検出されている。単純には比較できないが、成人のインフルエンザのウイルス排出に比べて、100倍か1000倍はウイルス量が高濃度である。臨床的に回復しても、かなりウイルスは残存し、感染性は残る可能性がある。

 まとめ

世界保健機関(WHO)が、緊急事態を宣言するかどうかを検討した23日の会合で緊急事態を宣言しなかったことは、世界に対して、2019-nCoVは重大な感染症ではないという誤解を生み、各国の対策が遅れたのは残念であった。結局、1月30日、WHOは2019-nCoV流行を緊急事態と宣言した。 武漢の病院の状況を見ると、患者があふれ、まるで、新型インフルエンザの大流行を想像させる。実際、中国での2019-nCoV流行による混乱を見ると、1918年のスペインかぜ大流行と似た事態となっている。100年後の現代、医療体制の整備された中国の大都市でさえ、SARS類似の感染症が蔓延し、治療法も予防法もないとすれば、結局、スペインかぜ当時の混乱が再現されている。
米国でのスペインかぜ流行時、1918年10月から多くの都市で、学校、映画館、劇場、バー、教会までも閉鎖され、商店の開店時間も制限、集会も禁止された。衛生当局は、特に有効な対処法がないので、道路に消防車から絶え間なく水の散布を試みた。多くの町で、マスクを着用しないとバスなどの公共の交通機関には乗車できず、サンフランシスコではマスク着用を義務とし、従わない場合は逮捕された。全ての病院が満床となり、廊下に患者があふれ、多数の医師、看護師がインフルエンザに罹患した。患者を収容できないので、各地で、教会などの大きな建物は臨時の病院となった。これらの光景は、今、武漢周辺で実際に起きていることでもある。
中国では、2019-nCoVに対して、大規模な、そして徹底した都市の封鎖、外出禁止などが実施されている。ワクチンや治療薬がないからである。もしもインフルエンザ並みの感染力があり、SARS類似の重篤な疾患が流行すれば、わが国でも、手洗い、マスク着用だけではなく、感染地域からの入国禁止、集会、イベントの禁止など、強力な政府主導の対策が必要となるであろう。
スペインかぜでは、世界中で封鎖が実施されたが、大流行を抑えることはできず、世界で数千万人が死亡した。筆者が注目しているのは、武漢や中国各地で実施されている封鎖、外出禁止で2019-nCoV流行を抑えることができるかどうかである。 

「新型コロナウイルス対策:そろそろ、医療機関で『まん延期』の話をしよう」
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
新型コロナウイルスに関する報道や対策はどんどん過熱しているようです。個人レベルでは、この世の終わりのように不安になっている方もいるようです。
そうしたなか、皆さんの医療機関では、国内での感染拡大に備えた対応の準備は進んでいるでしょうか? 指定感染症の施行が前倒しになり、2月1日からとなりました。「指定感染症だから感染症指定医療機関に送ればよいので、うちは関係ない」と思われていないことを願います。
まだ国内の感染例は、見かけ上は「追えている状況」ですが、検査できる施設は地方衛生研究所または国立感染症研究所に限られますし、軽症例も多いことから実際には追えていない状況を想定した方がよいでしょう。指定感染症だからと軽症の患者を入院させることによる感染防護の効果は限定的です。しかし、最近の報道を見ているとそうせざるをえないような雰囲気が出ていることに危惧をしています。読者の皆さんも軽症例にPCRなどの検査を行うというのは意味がないと思いませんか?
香港では、医療機関の職員が一斉に休業して抗議をしているという報道もあります。医療機関での対応において医療職はなんとか説得できても、事務職やその他の職種は不安があるという声も聞きます。今一度この段階から、国内での流行が見られて、感染者が増えた場合には医療機関で受け入れる可能性や基本となる感染対策を見直していただければと思います。
まん延した場合の対策の目的は、新型インフルエンザと同様に次の様になります。
「感染拡大を可能な限り抑制し、国民の生命および健康を保護する。具体的には、感染拡大による流行のピーク時の患者数等をなるべく少なくして医療体制への負荷を軽減するとともに、医療体制の強化を図ることで、患者数等が医療提供のキャパシティを超えないようにして、必要な患者が適切な医療を受けられるようにする。そして、重症者数や死亡者数を減らすこと」です。
新型インフルエンザでも、感染が拡大する前は患者を入院させ、感染拡大の抑制を考えますが、ある程度感染が広がった場合の対策の主眼は、「重症者の治療」、つまり死亡者を減らすということになります。この段階ではすべての医療機関が対応することが求められます。
武漢からの帰国者や、現地での大変な状況、そして各国の入国拒否などの報道に目を奪われ過ぎず、自分自身の医療機関でどうするか、ぜひ1度は会議を行ってください。
併せて、中央法規出版『新型インフルエンザ(A/H1N1)─わが国における対応と今後の課題』https://www.chuohoki.co.jp/topics/info/2001291648.html(無料公開)と、内閣官房サイトの過去のパンデミックレビューは、今後の動向を見通す際の参考になるでしょう。https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kako_index.html

2020年2月3日報道資料
▶新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月3日版)
▶新型コロナウイルス感染症に対応した医療体制について
▶新型コロナウイルスに対するワクチン開発について(第2報)
2020年2月1日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連した患者(14、15例目)及び無症状病原体保有者の発生について
2020年1月31日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の状況について(1月31日)
▶新型コロナウイルスに関連した無症状病原体保有者の発生について
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(13例目)
▶中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について(令和2年1月31日版)
▶中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎に関する世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言
2020年1月30日報道資料
▶新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の状況について
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(12例目)
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(11例目)
▶新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(10例目)
▶中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について(令和2年1月30日版)
▶新型コロナウイルスに関連した患者(9例目)及び無症状病原体保有者の発生について
▶新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の検査結果について

「新型コロナウイルス:産業医のための一般職場における感染リスク対策」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
国内での感染例や、潜伏期間であっても感染させるという報道を目にして、医療従事者と比較して感染リスクが低いはずの一般の職場からの問い合わせが多くなっています。今回は、産業医のために一般の職場における感染リスクと対策についてご紹介します。これを基に、職場でどう対応するかは衛生委員会で審議いただくのがよろしいかと思います。
職場における感染リスクは、感染者の有無によって決まります。潜伏期間の人でも他の人に感染させるという情報がありますが、現在の中国を含めた感染の拡大において、こうした人が全体の感染拡大にどこまで影響したかは不明です。また、これを考え始めると対策ができなくなるのでいったん横に置いておきましょう。
職場の感染リスクは次の2つの段階に分かれます。
1. 発熱や咳などの症状がある人の入室を制限できるか
2. 従業員や訪問者との対人距離を1〜2m、保てるか

それにより表のように感染リスクを4段階に分けることができます。クラスⅠからクラスⅣの順にリスクが上がります。その上にあるのがクラスⅤで、これはあまり想定されていませんが、発熱した人の近くでお世話する場面です。



職場において発熱や咳があったら休めるように、または発熱はないが少しだけ咳が出るならマスクをきちんと着けて咳エチケットを行うと職場での感染リスクはほとんどありません。事務職場ですとクラスⅡでしょうか。こちらもほとんど感染リスクがありません。客先でも、相手が元気そうでしたら感染リスクはないと判断できる場面がほとんどです。
不特定多数を相手にする職場であればクラスⅢやⅣになるでしょう。しかしながら、発熱や咳をしている方とどのくらい接することがあるでしょうか?一般的には、発熱があると、外にはあまり出てきません。「そうした人がいつ目の前に来るかわからないから」という理由でマスクを仕事中ずっと着けてもいいのですが、予防効果は限定的です。職員がどうしてもマスクを着けたい場合には着用を許している企業が多いようです。バスの運転手さんやガイドさんはクラスⅣに該当します。また満員電車も同様です。
クラスⅤは、もし万が一、発熱者に対応するようなことがあるとしたら、その時はお互いにマスクを着けて対応し、帰宅を促したりすることになるでしょう。接触する時間も減らしましょう。
マスクを購入することが困難になってきています。また、今後もこの流行は規模の大小にかかわらず数カ月続くと予想しています。
衛生委員会では、職場でリスクの高いところを特定して、職員の心情や不安に寄り添ってバランスの良い対策を検討してください。なお、マスクの在庫も減っていますので、会社が職員にマスクを配布して着用させるとなると、マスクがなくなった時にまた不安になります。中長期的な視点も取り入れながら対策を考えてください。
(著者注:2020年1月30日の朝の情報を基にしています)

「医療機関での患者同士の感染を防ぎ、通常の医療を維持する体制を」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
1月28日に奈良県在住の日本人で新型コロナウイルスの感染が確認されました。この方は武漢からの訪問者と接したことと肺炎を発症したことで検査に至り、確定診断されたものと思われます。
ニュースでは「無症状の潜伏期間に他人に感染させる可能性」が報じられています。このような情報を基にすると、「対応ができない」「対応しても意味がない」と思考停止に陥る可能性があるのですが、まずは発症している人からの感染拡大を防ぐことが重要になります。
特に重症化のリスクを抱える人が集まる医療機関においては、インフルエンザの流行が続いていることもあり、より一層強化した患者の誘導や空間的な分離を行い、他の患者に感染させないようにしたいものです。場合によっては、電話で事前に連絡をして受診をしてもらう体制が必要になるでしょう。また、発熱患者などの受付から会計、さらには処方までを優先しつつ、感染対策ができる対応も必要になるでしょう。
また、咳をしている患者にはマスクを装着するように促したり、場合によってはマスクを提供することも必要になるでしょう。もちろんマスクの院内での在庫の確認も大事です。
今後、このような感染の拡大が報告されると、重症化リスクと言われる基礎疾患を抱えた患者の中で感染が心配な人は医療機関の受診をためらう可能性があります。慢性疾患で、ある程度落ち着いているならば長期処方をしておくなどして診療の負担を少し減らしておく準備も選択肢としてあがります。
今後の想定は、武漢や中国となんら接点がない人が感染者として特定されることです。
通常の手術や検査などの医療を維持しながら、新型コロナウイルスにも対応する体制が求められようとしています。医療機関での診療継続計画を今一度見直したいものです。自身の医療機関が地域で新型コロナウイルス感染者に対してどういう役割なのかを地域に周知することも必要になるかもしれません。
2009年の新型インフルエンザ流行時の対応をまとめた書籍『新型インフルエンザ(A/H1N1)─わが国における対応と今後の課題』(和田耕冶・編、中央法規出版)が中央法規出版のホームページで1月30日から無料公開される予定です。今回は、新型インフルエンザではないですが、当時の対応はこれから起こりえることを想像するのにお役に立つと思います。
(著者注:2020年1月29日の朝の情報を基にしています)

「新型コロナウイルス:医療従事者の万が一を補償する労災補償制度」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
中国における医療従事者の感染や医師の死亡が報道されています。患者の多くは軽症という報告もされていますが、今後感染者に対応する可能性のある医療機関の職員や医療従事者は不安でしょう。今回は、診療による感染、そして死亡という万が一を補償する労災補償制度について改めて確認します。
民間病院と公的病院に対応する労災補償制度がわが国にはあります。原則としてアルバイトを含むすべての労働者に適用されます。雇用契約がないとこの制度は使えないので学生やボランティアには適用されません。
労災保険法に規定される労災補償制度には、感染症による業務上疾病の要件に、患者の診療で感染したということが含まれています。これまで、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)は日本で報告はないので、これらの感染症により労災補償制度が使われたことはありません。2009年の新型インフルエンザ流行時の場合には、2009年5月11日に事務連絡が出て、「医師、看護師等が患者の診断もしくは看護により、新型インフルエンザに感染し発症した場合には、原則として保険給付の対象となる」と示されました。しかし、その後は市中でのインフルエンザ感染が当たり前になり、診療行為による感染かどうかの判断が難しかったので、実際にどの程度が請求、認定されたかはわかりません。
労災補償では、治療費だけでなく、死亡した場合の補償もなされます。補償額はそれまでの年収と、配偶者や子供の有無により異なります。 例えば、2010年当時に試算をした額を参考までにお示しします。
死亡前1年間の給与が月収30万円と賞与80万円であった場合は、独身の方の場合は遺族に1500万円程度が支払われると計算されました。同じ給与で、配偶者がいて、子供がいない場合は、一時金300万円、年金として毎年約180万円と計算されました。また、労災補償にも上限があり、月収100万円、賞与250万円の方で子供2人がいた場合には一時金300万円、年金として毎年約640万円(このぐらいの額が上限に近い)が遺族に支払われるようです。
亡くなった場合には、遺族が労災申請を行わなければならず、医療機関は書類などの作成に協力することになります。また、認定は労働基準監督署によりなされます。自動的に支払われるものではありません。
なお、注意が必要なのは、経営者である開業医や医療機関の院長は原則として労災保険の対象とならないということです。しかし、一定の要件を満たせば労災保険の特別加入制度があるようです。経営者や管理者は、自分自身が労災保険の対象であるかは各自でご確認ください。

【参考文献】
▶ 和田耕治, 他:新興・再考感染症などに感染した場合の労災補償制度. Medical Asahi. 2011;7:34-7.

「新型コロナウイルスのツイート・パンデミック、正しいだけでなく“適温”の情報を」
倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)
新型コロナウイルス(2019-nCoV)の情報は、SNSを通じて瞬く間に世界に拡散された。2002年からの重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時にはこのような現象はなかった。SNSによって恐怖が煽られるようになったのは、2014年のエボラウイルス感染症流行の頃だと思う。
恐怖の扇動で得をする人間がいるとは思えないのだが、たとえば「武漢から発熱症状のある旅客が、関西国際空港の検疫検査を振り切って逃げた」などのデマが今回拡散され、ニュースになった。また、今回の騒動とは関係のない中国の映像を流してハッシュタグで関連づけた悪質なデマもあった。問題になっているパンデミックは、新型ウイルスではなくデマツイートではないかと錯覚するくらいだ。我々医療従事者は、こうした不適切な情報のスーパースプレッダーになってはいけない。
今回の感染症、確かに公衆衛生学的には注視する必要はあるが、それを差し引いてもマスメディアは騒ぎすぎではないだろうか。各局トップニュースで取り扱い、他国の感染者や死者が増えるたびに速報ニュースを流していく。エボラウイルス感染症の時と同じく、おそらくブームが過ぎれば彼らは報道をピタリとやめる。
サージカルマスクだけでなく、N95マスクが一般人に飛ぶように売れる事態は、現在の過熱報道によるところが大きい。重要なのは、正しいだけでなく“適温”の情報を流すことではないだろうか。

「産業医のための新型コロナウイルス対策:春節後に中国から戻った労働者の感染対策の考え方」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
春節が終わると、中国に帰国していた職員や留学生などが日本に戻ってきます。多くの人は日本で何らかの仕事をしています。
「中国から日本に戻った労働者を自宅待機にすべきか」という課題が企業で話題になっています。留学生のいる学校でも同様のことが話題になるでしょう。
こうした判断に必要な情報は、①潜伏期間、②感染者がどの時期にウイルスを排出し他人に感染させるのか、③軽症や発症していない人はウイルスを排出するのか―の3点です。
①については、潜伏期間は平均7日前後で、2日から12日という報告があります。また、1月21日現在、国立感染症研究所は、濃厚接触者は14日間の観察が必要としています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9323-ncov-200121-1.html
②については十分な情報がありません。
③は、発熱などの症状がないけども感染している人がいるという報告もあります。こういう人がどのくらい他の人にまで感染させているかはわかりません。報道によると、発熱など発症していない人が感染を広げているという話があるようです。インフルエンザでは、発症1日前からウイルスを排出していることが確認されていますが、今のところ咳などがなければ周りの人に感染を広げているエビデンスはありません。麻疹などでは潜伏期間に感染を広げていることは指摘されていますが、麻疹と同様に感染を広げることは今のところ考えられていません。
以上のように十分な根拠がない中での意思決定はなかなか難しいですが、一方でできる対策の選択肢はそんなにありません。
中国から日本に戻った方への対策を軽い対策から重い対策へと3段階にわけてみました。
A:中国で肺炎などの患者と接した可能性を確認。その可能性がなければ、発熱や咳などの症状を確認。症状がなければ出勤いただく。
B:Aを実施して、さらに出勤時は念のためマスクを着用させる。または別室で作業をさせる。
C:潜伏期間を参考に、帰国後数日は自宅待機とする。
どの対応を取るかは企業の姿勢次第です。ただ、いずれにしても「中国から帰国した」ということで差別の対象にならないように配慮すべきです。BやCの対策を行うにしても、本人や周りに十分納得できるように話をする必要があります。
Cの対策を実施したとしてもおそらく生活では外出するでしょう。重症急性呼吸器症候群(SARS)の際には自宅待機できない人はホテルにこっそり泊まったという話もありましたが、対策として疑問が残ります。
感染リスクはゼロにはなりません。そのためリスクは分散させる必要があります。もし何かのきっかけで感染が広がった場合には、その前の対応がどうであったか、また、その事実がわかった後にどう対応したかによって批判は変わります。
行動経済学者のダニエル・カーネマンは、「我々のリスク認知は、比較的小さなリスクを過大評価し、大きなリスクを過小評価する傾向がある」としています。バランスの良い対応をできるだけ考えたいものです。
(著者注:2020年1月26日朝までの情報を基にしています)

「新型インフルエンザの教訓から学ぶ新型コロナウイルス関連肺炎の診療体制」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
国内での新型コロナウイルスの診療体制が今後議論の対象になるでしょう。臨床像や治療に関しての情報はまだ不足しています。重症度については海外からの情報があったとしても国内での事例がある程度蓄積されないと、確信には至らないでしょう。
2009年の新型インフルエンザ流行時の対応においては、発熱相談センターと呼ばれる電話によるトリアージや医療機関の調整が行われました。しかし、想定と違って、例えば大分県では初期の67日間の相談件数6156件のうち、発熱などの症状がある受診の相談は1割だったという報告があります。電話の対応の負担はかなり重く、保健所などでは本来の業務ができないということもありました。また、「発熱」という名称を途中でインフルエンザ相談センターと変えた自治体もありました。電話相談は、ある一定の効果はあったかもしれませんが、もう少し工夫が必要です。
国内での流行の初期は、入院勧告がなされるでしょう。感染症指定医療機関は居住地から遠いこともあるため、患者の負担が大きいです。また、軽症だった場合には入院させるのかといったことも議論になるでしょう(1月24日現在は検体採取の後は軽症なら自宅において感染予防策ができることを担保したうえで自宅安静となっています)。初期は特にPCR検査をし、場合によってはダブルチェックなどが必要となり、長い時間の待機も必要になるかもしれません。中国の方だと言葉の問題があり、不安になったり、トラブルにもなるかもしれません。
臨床の先生方にとって最も関心が高いのは、重症例です。新型インフルエンザ流行時においては海外から検査値や画像を含めた詳細の入手は困難でした。そのため当時は、厚生労働省の研究班が国内での重症例を集め、臨床医に共有をしました。もちろん重症例だけでなく、臨床像を早く共有できる体制の必要性が当時から指摘されています。今回も同様のニーズがあるはずで、対応を今から考えておきたいものです。 冬期は入院のニーズが高い時期です。こうした時期ですので、感染者がどんどん入院できる状態にはないため、自宅待機ということも考えなければなりません。家族がいる場合には、流行の初期には自宅待機による感染リスクが懸念され、こっそりホテルに移動するといったこともありえるかもしれません。受診の際にタクシーを使ってよいのかという課題もいまだ残っています(タクシー運転手の感染リスクのため)。
あとどのくらいの時間が残されているかわかりませんが、できるだけ教訓を生かしながらの検討が求められます。

【参考文献】
▶和田耕冶,編:新型インフルエンザ(A/H1N1).中央法規,2011.(絶版)

(著者注:2020年1月23日深夜の情報を基に執筆しました)

「新型コロナウイルス:地域の医療機関での話し合いと中国の方に受診方法をわかりやすく」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
新型コロナウイルスは、今のところ感染症法において対象になっていません。そういうこともあってか、地域においてどこの医療機関が(例えば感染症指定医療機関など)対応するかといったことも決められていないようです。
重症急性呼吸器症候群(SARS)の時は、2003年4月に新感染症(人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状または治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの)になりました。その後、ウイルスが特定された同年6月に指定感染症(定義一部省略:当該疾病のまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの)になり、同年11月5日より感染症法の改正に伴い、第一類感染症(現在は二類)としての報告が義務づけられるようになりました。
新型コロナウイルスに関しては、こうした法的な手続きには時期尚早ということもあるのでしょう。しかし、法令による動きがないこともあってか、自治体などでの対応が十分になされないことが実感されています。皆さんの地域ではどうでしょうか?

 自治体や国が主導して受診方法の情報提供を

中国からたくさんの観光客が来ていますが、新型コロナウイルスの拡大に備えて、もし具合が悪くなったらどこに受診したら良いかの誘導もそろそろする時期ではないかと感じています。特に、中国語の通訳となると人材が不足しています。春節ですから、中国からの留学生は中国に帰国して、アルバイトも不足となっています。
自治体や国が主導して、①中国語での医療機関の受診方法、②症状がある場合の咳エチケット、③事前の電話の後の受診(なかなか言葉ができないと難しいが)─などの情報提供をすることはできているでしょうか。検疫の強化がよく話題になっているようですが、潜伏期間の限界を考慮すると、こちらの方が重要と考えます。
また、中国語による受診や具合が悪い場合の相談体制を構築できないでしょうか。かつて新型インフルエンザが流行した時に受診にあたって電話相談を自治体が実施しましたが、すぐにパンクしたことは考慮すべきです。
最近AIによるチャットなどもあるようですが、そうしたものでできないものでしょうか。きっと東京五輪・パラリンピックの際にも役立つ経験になると思います。
(著者注:2020年1月23日早朝の情報をもとにしています)

「産業医のための新型コロナウイルス関連肺炎対策」
和田耕(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
新型コロナウイルスのヒトからヒトへの感染が確認されました。2020年1月22日現在の情報を基に、企業ではどうした対応が今後求められるのかについて産業医向けに解説をします。なお、今後の展開により、早期に状況が変わり得ることをご承知おきください。
私は2019年1月に武漢を訪問した経験があります。武漢は地下鉄が9路線もある大都市で、東京や大阪への直行便もあります。今後も、国内外で感染例が確認されるでしょう。
こうした状況に備えて企業にはいくつかの意思決定が必要になり、そこには産業医の支援が求められます。

(1)国内事業がメインの企業

従来のインフルエンザ対策と同様に、①発熱など具合の悪い従業員は休ませる、②手洗い、③不特定多数が多い場所ではマスクの着用─が対策として挙げられます。接客業ではマスク着用を禁止する動きもあるようですが、国内での感染などがさらに確認され、不特定多数と業務で接触するような場合には、一時的にはマスク着用を許可することも良いでしょう。ただし、マスクの効果を過信してはいけません。

(2)海外に出張者や駐在員がいる企業

特に中国にいる場合にはなかなか難しい対応が求められます。春節ということもあり、多くの日本人の駐在員や出張者は帰国しています。春節が終わり、また中国へ行くとなると、本人も家族も不安になることもあるでしょう。
現地に工場があって従業員がいるとなると、春節明けは発熱者の確認なども必要になるでしょう。春節の間に中国や世界で感染が拡大した場合に、従業員が少しでも安心できるような対策の選択肢を検討する必要があります。
現段階では、感染性も重症度も不明なことが多いです。新型インフルエンザのように、パンデミックのような形で世界に広がりうるのかはまだわかりません。重症度も、従来のインフルエンザと比較してどのくらいかによって深刻度は変わるでしょう。もう少し症例が集まるとわかるでしょうが、海外の情報だけでは十分ではありません。
2009年のインフルエンザの流行のように、初期の感染者は企業名などが出ることがあります。メディアやネットなどの勢いをコントロールすることは難しいです。感染症だけでなく、風評被害なども考慮する必要があります。経済への影響、そして来たるべきオリンピックへの影響は最小限になればと願います。また状況をみて、更新します。

【参考文献】
▶ 和田耕治, 他:新型インフルエンザ発生時に企業に必要な感染対策に関する意思決定とそのための情報. 産業衛生学雑誌. 2012;54:77.
[https://www.jstage.jst.go.jp/article/sangyoeisei/54/2/54_wadai11005/_article/-char/ja/]

「新型コロナウイルス感染症とスーパー・スプレッダー」
矢吹 拓(国立病院機構栃木医療センター内科医長)
本稿を執筆している2020年1月21日現在、中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスによる感染者が断続的に報告されている。なかには重症者・死亡者も含まれており、日本国内でも中国から帰国した輸入感染者が確認されている。普段毒性が弱いとされているコロナウイルスが突然変異して猛威を振るう事態は、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年の中東呼吸器症候群(MERS)に次いで3回目である。過去には動物を媒介した重症化と流行が確認されているが、今回も重症化リスクが懸念され、ヒト-ヒト感染の可能性が指摘されている。
ウイルスの流行時期に、感染を一気に蔓延させる要因のひとつがスーパー・スプレッダーである。スーパー・スプレッダーとは、病原体に感染したホストのうち、通常予測される以上の二次感染例を引き起こすホストのことである。例えば、保菌者として腸チフスを拡散した「腸チフスのメアリー」が有名で、彼女は家政婦として給仕した家族に腸チフスを感染させ、その生涯を通して50人前後の感染者や死者を出したという。「腸チフスのメアリー」は長期間にわたって感染を拡大させたが、単回の接触で多くの患者にウイルス感染を拡げてしまうホストもスーパー・スプレッダーである。例えば、韓国ではMERS感染の83.2%が5件のスーパー・スプレッダーから蔓延したとされている。スーパー・スプレッダーのリスク因子は明らかにはなっていないが、宿主・病原体・環境要因が関連しており、さらに宿主の行動が重要ではないかと推察されている。
感染源として個人が特定されることは、プライバシーや人権の問題はあるが、流行拡大が起きないためにも、スーパー・スプレッダーの特徴を明らかにすることは重要である。感染流行のいち早い収束を祈るばかりである。

「新型コロナウイルス(2019-nCoV)案件、今後の注目点〜北京におけるSARSの対応経験から」
勝田吉彰(関西福祉大学社会福祉学研究科教授)
筆者は前職の外務省医務官時代の2003年に、SARS(重症急性呼吸器症候群、severe acute respiratory syndrome)のアウトブレイクに見舞われた北京で、日本国大使館医務官として情報収集や在留邦人へリスクコミュニケーションの任務にあたっていました。まったく未知のコロナウイルスが現れて何が起こる可能性があるのか─。当時と比べて今後の注目点を紹介します。なお、本稿の執筆時点(1月19日)から掲載までの数日間のタイムラグで答えが出ていたり異なる展開になっている場合も考えられますが(それぐらい速く事態は展開します)、ご了解下さい。

(1) スーパースプレッダーが現れるか否か

1人の感染者から、より多くの健常人に感染させる“スーパースプレッダー”。この出現の有無で、感染者数はもとより報道量もガラリと変わります。これまでのコロナウイルス案件、SARSやMERS(中東呼吸器症候群、middle east respiratory syndrome)ではスーパースプレッダーの出現で社会の雰囲気が変わりました。『香港のメトロポールホテルで医師が…』『内蒙古自治区で航空機客室乗務員が…』など、今でも紙面が記憶に残る出来事です。
今回の新型コロナウイルスでは、本稿執筆時点では家族内感染が疑われるのは2例のみで、世界保健機関(WHO)の声明も「限定的なヒト-ヒト感染の可能性が示唆される」にとどまるところから始まっていますから、過去のコロナウイルス案件同様のスーパースプレッダーの出現があれば、一般社会の雰囲気の「変化率」はより大きなものになると思われます。

(2) 医療従事者の感染が現れるか否か

ヒト-ヒト感染の指標になるのが「家族内感染」と「医療従事者の感染」です。現時点では、少なくとも医療従事者の感染は報じられていません。今後「医療従事者の感染」が出現する事態になれば、これも大きく社会の雰囲気を変える事態になります。SARSではこれが頻繁に発生して現場は悲壮感に満ち、中国政府は現地メディアを通じて「白衣戦士に敬礼を!」と士気鼓舞に努めていました。

(3)外国籍/著名人の感染者が現れるか否か

もうひとつ当時の北京で雰囲気が大きく変わるきっかけになったのが、「国際労働機関(ILO)要人の感染・死亡例」でした。今回も著名人・芸能人の感染が発生すれば雰囲気は一変するでしょう。

(4)春節の移動ラッシュ(春運)はどう出るか

春節期間中に増えるインバウンド旅行客による感染持ち込みに関心が集まっているように見受けられますが、実際のところ焦点はそこではありません。国内メディアが心配する、航空機で来日する中流層以上よりも深刻なのは、庶民層の帰省列車でどう拡大するか、です。筆者は北京駐在中に一度、それを経験して鉄道趣味誌に投稿するというもの好きな経験を持ちます。
異様な高密度が発生するポイントは以下の3つです。①切符売場の争奪戦、②候車室(列車ごとにわかれた待合スペース)、③車内(1列5人掛けのボックスシートに詰め込まれた出稼ぎ労働者、無座と表示された立席切符で通路まで埋まる車内)、さらに彼らが持ち込む巨大な荷物には家禽を含む食糧が入っています。この中で、どこまで拡大するのか、固唾を呑んで春節を注目しています。

「中国で流行している新型コロナウイルス感染症、あらゆる可能性を“想定内”に」
岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
2019年12月以降、中国の湖北省武漢市で肺炎が流行し、これが今まで知られていなかった新しいタイプのコロナウイルス(novel coronavirus〔2019-nCoV〕) が原因と判明した。当初59名と報じられた患者数は本稿執筆時点(2020年1月17日)で41名と訂正され、2名が死亡に至っている。12名は回復して退院した。死亡者のうち1名は60代の男性で、心筋炎を合併したという(国際感染症学会メーリングリストProMedによる〔https://promedmail.org/〕)。もう1名の死亡例についても心筋炎や多臓器不全が認められたと言われる一方、結核を併存していたという報告もあり詳細は不明である。この他、タイと日本で1名ずつ輸出症例が発見されている。763名の濃厚接触者が追跡され、そのうち644名は問題なしとされて観察解除となり、119名は未だ観察中だ。
中国の肺炎といえばSARS(重症急性呼吸器症候群、severe acute respiratory syndrome)を思い出す。2002年から2003年にかけて、中国の広州を中心に流行した死亡率約10%のウイルス感染症だ。私は2003年から北京の診療所でSARS対策に従事した。SARSはマンション、ホテル、病院内でヒト-ヒト感染が多発し、医療者の罹患も多かったために北京市内での診療は極度の緊張をもたらした。
当時の中国はまだ医療制度も診療体制もしっかりしておらず、SARSの情報公開が不十分で実態把握に苦労した。この時の反省を受けて中国では疾病予防対策センター(中国CDC)を充実させ、感染対策の質を高めてきた。現在では世界保健機関(WHO)などからも高い信頼を得ている。今回の肺炎でも新型コロナウイルスの遺伝子配列情報は即座に世界に公開され、タイや日本での診断の一助となった(日本経済新聞電子版1月16日)。
このウイルスはどこからやってきたのか。詳細は本稿執筆時点では不明だが、武漢の海鮮市場と多くの患者に関連が高く、ここがウイルスの発生源ではないかと疑われている。中国当局は海鮮市場をただちに閉鎖し、新規の患者は発生しなくなった。ヒト-ヒト感染も起きているであろうことが推察されるが、どのくらいの感染力があるのかは現時点では不明である。ざっくり言えば感染力、致死力などいずれもSARSほどのインパクトはなさそうだが、プレマチュアな断定は禁物だ。 
現時点では「分からないこと」がたくさんあるなかで、我々医療者に必要なのは冷静であり続けること。しかし油断もしないこと。「分からないこと」に自覚的であり、曖昧さに耐えること。意外な新情報にも驚かないこと。つまり、あらゆる可能性を「想定内」にしておくことである。

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