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【本庶佑先生ノーベル賞受賞記念特設ページ】国民皆保険制度の崩壊危機〜週刊日本医事新報2013年11月2日号「プラタナス」欄より

本庶佑先生のノーベル生理学・医学賞受賞を記念して、週刊日本医事新報第4671号(2013年11月2日号)「プラタナス」欄に掲載されたお原稿を再掲いたします。
「プラタナス」は、医療界のトップランナーからの提言を紹介するコーナーですが、その中で、本庶先生は「生涯健康プラン」「公的保険制度」「終末期医療」の3つの課題を挙げられています。特に公的保険制度の将来像については、「適用される医療技術や医薬品が次々と拡大することの再検討(が必要)である。…限られた財源と医療資源をどのような形で使うことが最も国民の健康に寄与するのかという問題を医療従事者、受益者、保険者等が真剣に考えるべきである」と、高額薬剤問題についてもふれられている点が印象的です。

「国民皆保険制度の崩壊危機」本庶 佑

我が国の医療費は既に38兆円に達し、介護費用と合わせると47兆円を超える。これは我が国の税収に近い金額であり、このままでは世界に誇る国民皆保険制度の崩壊は確実だ。この事実は医療に携わる者ならだれでも認識しているが、国民皆保険の最大の受益者である国民の間での認識がまだ十分でないことは大きな懸念材料である。

私が代表世話人を務めるボランティア組織「21世紀医療フォーラム」には、医学界のみならず企業経営者、官僚OB、マスコミなど幅広い人材が集まり、我が国の医療制度の未来について具体的な提言を行う活動を5年ほど行ってきた。

その提言は3つの大きな括りになっている。第1は国民一人ひとりが自己責任で「生涯健康プラン」を立てて予防医療に努めること。また、国はそれへのインセンティブや仕組みづくりを促進することである。できれば病気にならず、健康で一生を過ごせることが国民にとっては最も重要である。医師は病気になった人の治療だけをするのではなく、病気の予兆を発見し、的確な指導とその予兆の重要性を指摘して国民の健康を守る責務がある。

第2は公的保険制度に適用される医療技術や医薬品が次々と拡大することの再検討である。今後、高齢者の割合が急速に増大することを考えると、限られた財源と医療資源をどのような形で使うことが最も国民の健康に寄与するのかという問題を医療従事者、受益者、保険者等が真剣に考えるべきである。その上で最も有効な、標準的な医療についての確固たる保険制度を確立すべきである。そのためにはそれぞれの医療手段、医薬品についての明確な科学的根拠と費用対効果を精査していくことが必要である。学会によるガイドラインも、今後は単に治療効果のみでなく相対的費用効果に基づいた策定が必要である。

第3は終末期医療に関する国民の理解と、医師に無理な負担を負わせない尊厳死に関わる法制度の整備である。ヒトは誰でもいつかは死ぬ。問題は一人ひとりが、自分はどのように死ぬことを望むかという明確な死生観を持つことである。死が訪れる前に自分の死に様を考えておくことは極めて重要であるが、まだ多くの国民にそのことの重要性が理解されていない。一方で医師には、明確な尊厳死を認める法制度がない現状では、患者の希望に沿うつもりが殺人罪に問われることもあり得る。個人の死生観の確立と尊厳死を許容する法整備を合わせることにより、終末期医療費を無駄に使わず、個人の尊厳を保った死を迎える環境が整うのではないかと考える。

ほんじょ たすく:1942年生まれ。66年京大卒。阪大教授などを経て、84年京大教授。同大院医学研究科長、同大医学部長、内閣府総合科学技術会議議員、静岡県公立大学法人理事長などを歴任。京大高等研究院副院長・特別教授。同大名誉教授。2000年文化功労者、13年文化勲章。

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