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(1)社会的ジェットラグの概念と病態メカニズム[特集:「社会的ジェットラグ」が健康に及ぼす影響]

No.4863 (2017年07月08日発行) P.26

三島和夫 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神生理研究部部長)

登録日: 2017-07-07

最終更新日: 2017-07-05

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  • 生物時計の機能には個人差があり,睡眠習慣や生体リズムの差異として現れる

    社会的ジェットラグとは,社会時刻と個人の生物時計のミスマッチによって生じる症候群である

    社会的ジェットラグは睡眠,パフォーマンス,気分調節,自律神経,内分泌・代謝など多彩な心身機能に影響を及ぼす

    1. 社会的ジェットラグとは

    「社会的ジェットラグ(social jetlag)」とは,社会時刻と個人の生物時計の性質(睡眠,生理機能リズムの位相)の不一致によって心身の不調を呈する状態象を指し,睡眠医療や時間生物学の領域でも比較的新しい概念である1)

    仮に我々が自由なスケジュールで生活することが許された場合,睡眠パターンは生物時計(いつ眠くなるか)と睡眠恒常性(どれだけ眠れば回復するか)の相互作用で決定されるが,その個人差はきわめて大きい。20歳代男性に限っても,生物時計の位相(生体時刻)の代表的なパラメーターであるメラトニン分泌開始時刻には5時間以上の開きがあり,特殊な方法で測定した必要睡眠時間(睡眠不足をためずに体調を維持できる睡眠時間)にも2時間以上の開きがある。個人に最適な睡眠スケジュールはこの両者の組み合わせからなるため,実に多様である。小児や青年期の若者,中年や高齢者を含めれば,その個人差はさらに広がる。

    ところが,そのような「自然体」で寝起きできる人はごく限られている。大部分の社会人は,出勤や登校,家事などの社会時刻に縛られており,睡眠パターンの個人差に比較して社会時刻は画一的である。そのため,夜型傾向が強い人やロングスリーパーを例に挙げれば,平日には自然覚醒時刻よりも早く起床する必要があり睡眠不足(睡眠負債)に陥る一方,休日には蓄積した睡眠負債を解消するため長時間睡眠(いわゆる寝だめ,実は借金返済)をする。つまり,生活者の一部では平日と休日で就床・起床(入眠・覚醒)時刻が大きく異なる。後述するが,このように不安定な睡眠習慣は結果的に概日リズム(生体リズム,サーカディアンリズム)の最強の同調因子である環境光への曝露パターンの変動を介して,週末には生体時刻が1時間前後後退,平日には前進するなど,生物時計位相の大きな揺らぎをまねく(図1)。



    そんなことが問題なのかと思われるであろうが,このような社会時刻と個人の生物時計の不一致による,比較的軽度ではあるが持続する睡眠負債と生理機能リズム間の位相関係の乱れ(内的脱同調)が,種々の健康リスクと関連することが明らかになりつつある。

    なお,睡眠・覚醒リズムの調節機序,睡眠負債や内的脱同調が心身機能に及ぼす影響,時間栄養学に関する詳細な情報や文献をご希望の読者は,筆者の書籍,総説2)~4)をご参照頂きたい。

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