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福島原発事故から6年 ─甲状腺検査の課題と今後 [OPINION :福島リポート(25)]

No.4846 (2017年03月11日発行) P.16

山下俊一 (長崎大理事・副学長/福島県立医大副学長(非常勤))

登録日: 2017-03-08

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  • 2016年9月に開催された第5回福島国際専門家会議(日本財団主催)では、チェルノブイリ原発事故から30年の教訓を福島へ生かすために、甲状腺問題に焦点を絞って議論が行われた。福島原発事故以降、県民の健康見守り事業の一つとして開始され、事故当時に概ね18歳以下だった県民を対象に実施されている甲状腺超音波検査の結果とその解釈について、国内外の専門家が多角的に発表し、活発な議論が交わされた1)。参加者は、すでに福島に関するレポートをそれぞれ取りまとめている世界保健機関(WHO)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)などの専門家で、現状に関する客観的で科学的な評価を行った。  

    福島国際専門家会議の提言

    会議の結論は、(1)被ばく線量の違いから、福島原発事故による甲状腺への影響はチェルノブイリ原発事故後とは大きく異なる、(2)甲状腺超音波検査では、スクリーニング(検診)効果の結果としてがんを含む多数の甲状腺異常が発見されている─というものであった。その上で会議は、甲状腺検査は便益とリスクを考慮して実施されるべきであり、受診者の自主的な参加意思が尊重されるべきであるということや、原発事故後の健康モニタリングに関する専門作業部会を国内外の関係機関と連携して設置し、その専門的提言を参考に、当事者はじめ関係者合意の下で、甲状腺超音波検査プログラムの改善に役立てることなどを「将来への提言」としてまとめ、福島県知事に手交した。

    震災から6年が経過し、このような国際専門家会議が定期的に開催され、順次英語でも情報公開されている2)。今回の提言の背景は、チェルノブイリ原発事故の再来という当事者の不安と懸念に正対するためであり、さらに福島県の現状の課題を科学的に整理する必要があったためである。

    放射線と甲状腺がん

    なぜ、福島で甲状腺が注目されるのかと言えば、不確定で不確実な将来への不安として、原発事故後の放射線リスク、すなわち発がんリスク(甲状腺がん)への恐れが大きいからだと考えられる。であればこそ、放射線・放射能に対する理解促進と、甲状腺がんの自然史への正しい認識が不可欠となる。

    放射線被ばくによる発がんリスクの増加については、外部被ばくである原爆被爆者の長年にわたる追跡調査など、多くの臨床疫学データが参考となる。一方、内部被ばくでは、チェルノブイリ原発事故後に放射性ヨウ素に汚染されたミルクや食の連鎖によって、高い甲状腺被ばく線量による甲状腺がんリスクの増加が報告されている。いずれも線量依存性のモデル解析から発がんリスクが評価され、ある被ばく線量以上で、通常100〜200mGy(γ線の場合mSvと同じ)以上でのリスクの存在が疫学的に報告されている(図1)。福島県では、チェルノブイリよりはるかに低い甲状腺被ばく線量であると推計されるが、それ以下であってもリスクがあり得るというLNT(Linear Non-Threshold)モデルが放射線防護に適用されている。

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