「オウンドメディア」という言葉はマーケティング系の用語でインターネット上のトリプルメディアの1つと定義されている(表1)。オウンドメディアは一般的には企業自身のウェブサイトすべてを指すが、今回は医療従事者向けサイトのことに限定して述べる。
トリプルメディアにはそのほかにペイドメディアとアーンドメディアと呼ばれるものがある。一般的にはペイドメディアは企業等が費用を払って広告・宣伝を行うことができる媒体を指すが、医薬品業界ではエムスリーや日経メディカルOnline、ケアネットをはじめとした医療ポータルと呼ばれる医療従事者を対象に会員化したサイトを指す。代表的な例で言えば、エムスリーの「MR君」をはじめとするサービスやサイト内に表示されるリンク広告が該当する。
アーンドメディアは一般的には第三者評価的な口コミサイトとかSNS系サイトのように生活者や利用者が主体となるメディアを指す。代表的な例としてはメドピアの「薬剤評価掲示板」がほぼ該当すると考えられている。
トリプルメディアはそれぞれが異なる特性を持つため受け手側の意識や行動決定に過不足なく情報を提供することができる。
製薬企業のオウンドサイトは20年以上利用されてきたが、利用者である医師や医療従事者からは使い難い部分として以下のA〜Cの3つの点が指摘されることが多い。
A)ログインが面倒
B)知りたい情報が探せない
C)製薬企業は自分の都合の良いことしか載せてないのでは
特に会員制サイトのログインに関しては黎明期から医師より使い難いという指摘がされてきた。しかしながら、医療系のウェブサイトは製薬企業だけではなく前述の医療ポータルサイトの多くもおよそ以下の3つを主な理由として会員制を採用している。
(1)薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)ならびに関連する法令により、医薬品等の宣伝広告行為が医薬関係者に限定されているので、コンテンツ視聴者の確度の高い資格確認が必要なため。
(2)会員制にすることで膨大な情報の中からその会員に合った情報を優先的に提供することができ、より良好なコミュニケーションが可能になるため。
(3)法令や規制により視聴者の特定が必要となるコンテンツや、麻薬などのように社会性を鑑みてより正確な資格確認が必要とされる情報を提供する場合があるため。さらには不測のトラブルから保護する目的。
もともとは薬事法(現薬機法)対策として視聴者の厳密な資格確認として会員制を採用していたが、アカウントの不便さから医療従事者であることの確認を自己申告で確認する方式である簡易認証方式も用いられるようになった。その結果、現在では会員制システムで個別のアカウントを持つ場合と、閲覧資格確認のための簡易認証方式を採るケースが大半を占めている。さらには会員制を採用している製薬企業でも添付文書等の一部のコンテンツに関しては簡易認証でアクセスできるようにしている。
近年、この製薬企業ごとの会員制アカウントにおける不便さの対策として共通アカウントというサービスが拡がっている。
これは企業が異なっても同じ1つのアカウントでログインができるサービスである。具体的なイメージとしては一般的なサイトでよく見かける「Googleのアカウントでログインする」とか「Facebookのアカウントでログインする」といったものと同じで、3年ほど前から共通アカウントを利用したログイン方式を採用している製薬企業が増えてきた。この共通アカウントを使ってログインする方法をシングル・サインオン(SSO:Single Sigh On)と呼ぶ。SSOを提供する企業はGoogleやFacebook、あるいは楽天などでも良いのではと思われがちではあるが、それぞれの会員プロファイルには医療従事者という項目がないか、あるいは仮に職種を記入したとしてもそれが本当に正しいという保証がなされていないため、製薬企業の医療従事者向けサイトでは使われない。
製薬企業は、医療従事者であることを確認して登録した医療系に特化した会員組織を持っている共通アカウント専門の会社の仕組みを利用してSSOを実施する。例えば株式会社Medパス( https://medpass.co.jp/ )などが挙げられるが、Medパス自体には14万人を超える臨床医が登録している。登録会員はMedパスのアカウントだけでSSOの仕組みを利用している複数の製薬企業やヘルスケア系企業の会員制エリアを閲覧することができる。このように共通アカウントを使用することによって従来のログインの際の面倒さはかなり低減することが今は実現できている。