中川 このような有事の時には、リスクマネジメントに厳しくむしろマイナス思考の人が責任者として全体をリードすべきです。台湾はIT担当相のオードリー・タン氏が思い切った対策を「そこまでやらなくてもいい」というぐらい徹底的にやってうまくいきました。
日本の政府は専門家を“防波堤”にしているところがありますが、専門家の会議はいわばシンクタンク。そのシンクタンクをうまく使いこなせるかがカギになります。そのためには、独立性と先見性を持って意見を出せるよう専門家の会議に一定の権限を与えないといけません。
昨年4月の緊急事態宣言の時に強いメッセージを発信した厚労省クラスター対策班の西浦博さん(現・京大環境衛生学教授)のことは高く評価しています。いま考えてみると最初の緊急事態宣言は非常に良い判断でした。
中川 少々政府の意に添わないことを言ったとしても必ず守られる、そういう保証を専門家に与える必要があるでしょうね。
中川 だから全国の医師会は緊張しています。緊張しているし張り切っています。
中川 中等症・軽症のコロナ専門病院をつくるとともに、感染力のなくなった患者さんを受け入れる後方の病棟をつくる必要がある。風評被害と差別の対策も含め、この3点をセットで進めなければならないと思います。
中川 COVID-19に限れば「徹底的な感染防止対策が最強の経済対策」です。それが私の信念だし真理だと思っています。短期間でもいいから徹底的に感染防止対策を進めて、「ステージ3」(感染者の急増)などと言わず、少なくとも「ステージ2」(感染者の漸増)までいかないと経済を回すことはできません。
中川 医療というか感染状況を落ち着かせる。そうして初めて経済を回すことができるのだと思います。そういう理念で対策を進めていればもっとうまくいっていた。政府のGoToキャンペーンは間違いなく感染拡大のきっかけにはなったと思います。
中川 オンライン診療などのデジタル化は時代の流れだから進めなければいけません。ただ、全くの初診患者までオンライン診療でいいなどということはあり得ません。デジタル化は国民のために進めなければいけないけれど、絶対に無理な部分はあります。そこは頑なに守らなければいけない。キーワードは「着実に、少しずつ」です。一気呵成は危ない。
AI(人工知能)の進化のスピードは想像の域を超えている。将来、医療もすべてAIで終わってしまう可能性があります。「先生、ありがとうございました。本当に助かりました」と言って退院する時に握手をしたらどうも手が冷たい。よく見たら自分の主治医は機械だったというSF映画のような話が十分あり得ます。
中川 そういう時代に新型コロナウイルスだから。こんなに進んでいるのに、結局、対応のレベルがスペインかぜの時代と変わっていない。ウイルス恐るべしです。
中川 正しく知って正しく展望する。AIを恐れる必要はないけれど、楽観視することもできません。それこそ「ウィズAI」です。「ウィズコロナ」という言葉は緩みを生むので好きではないのだけれど、AIをどう使いこなすかはこれからの医療の大きなテーマです。
中川 お願いしたいのは丁寧な報道。センテンスの切り取りではなく、前後がつながるような報道をしてほしいですね。日本医事新報というのは名門なのだから特にそれを心がけてほしい。
(2021年1月21日/聞き手:本誌 山崎隆志)