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耐糖能異常における薬物療法導入のタイミング

No.4912 (2018年06月16日発行) P.47

大門 眞 (弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学講座教授)

登録日: 2018-06-12

最終更新日: 2018-06-12

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  • 耐糖能異常(IGT)は糖尿病発症の予備軍のみならず,大血管障害の危険因子

    IGTの治療として,生活習慣介入が最も有効

    生活習慣介入は遵守率が高くなく,薬物療法の方が有効な場合も多い

    1. 耐糖能異常(IGT)における命題

    耐糖能異常(impaired glucose tolerance:IGT)とは,何であろうか? 軽度耐糖能の異常は糖尿病ではなく,正常と糖尿病との境界領域である。一般的には「境界型糖尿病」あるいは「糖尿病予備軍」とも呼ばれる。いまだ糖尿病に至っていないので,その治療目標は糖尿病発症予防であろうか? そして,その方法(介入)はどうあるとよいのか? 糖尿病は生活習慣病なので,その治療の根幹は生活習慣介入に決まっているが,それだけでよいのか? 積極的に薬物で介入するのはどうか? 筆者らの研究成果(舟形研究)を紹介するとともに,これら疑問への私見を述べる。

    2. IGTは糖尿病予備軍?

    IGTの定義は何であろうか? 耐糖能評価のゴールドスタンダードは75g糖負荷試験であり,その結果により,図1に示すように耐糖能は3つの型にわけられる。正常型(normal glucose tolerance:NGT)は空腹時血糖値(fasting plasma glucose:FPG)<110mg/dLかつ負荷後2時間血糖値(2hPG)<140mg/dL,糖尿病型(diabetes mellitus:DM)はFPG≧126mg/dLあるいは2hPG≧200mg/dLと定義されている。正常でも糖尿病でもない,その間が境界型で,図1では水色で示されている。この領域の人たちは,いまだ糖尿病とはなっていないが,耐糖能に異常をきたしており,将来糖尿病となるリスクの高い群,糖尿病予備軍と考えられる。また,この領域は,FPGの高い群(110~125mg/dL)〔空腹時過血糖(impaired fasting glycemia/impaired fasting glucose:IFG)〕と2hPGの高い群(140~199mg/dL)(IGT)の2つにわけられる。IFGとIGTは同時に重なることもあるが,多くは別々で,有病率はIGTが多い。

       

    では,IFGとIGTは同じく糖尿病予備軍なのか? ベースライン時に非糖尿病で5年後の追跡調査にも参加した者を対象とし〔3516人(男/女:1496/2020,年齢:58.2±10.4歳)〕,糖尿病の発症率を検討した舟形研究の結果では,NGTの糖尿病発症率は2.8千人年だったが,IGT,IFGの糖尿病発症率は有意に高く,各々29.0千人年および40.0千人年だった(図2)1)。また,IGTおよびIFGのNGTと比しての糖尿病発症の年齢性別補正危険度〔オッズ比(odds ratio:OR)〕は,13.4〔95%信頼区間(confidence interval:CI);9.0~119.9〕および11.1(7.1~17.1)と,同様に有意に高かった。すなわち,IFGもIGTも同様に糖尿病の予備軍である1)

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