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インフルエンザワクチンの発病防止効果ー診断陰性例コントロール試験

No.4879 (2017年10月28日発行) P.36

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院小児科/感染制御チーム,慶應義塾大学医学部客員教授)

登録日: 2017-10-27

最終更新日: 2017-10-25

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  • 最近,わが国でも報告されるようになったインフルエンザワクチンの効果判定法である診断陰性例コントロール試験(test-negative法)について解説した。日常診療で実施しているインフルエンザ迅速診断を用いれば,実地医家でも容易に,かつ精確にワクチン効果を解析できる。わが国のインフルエンザワクチンは成人,小児ともに約50%の発病防止効果があり,特に小児では高い入院防止効果がある。小児に対するインフルエンザワクチン接種は必須とも言えよう。成人でもワクチン接種は勧奨されるが,高齢者における発病防止,入院防止効果についての十分なデータはない。今シーズンは変異したH1N1pdm09の流行に警戒が必要である。

    1. ワクチンの本来の目的

    わが国においては,「インフルエンザワクチンによって感染は抑えられないが,重症化防止の効果がある」とマスコミを中心に喧伝され,重症化防止がワクチン接種の目的のように思われている。しかしこれは誤りで,ワクチン接種の本来の目的は発病防止である。発病防止効果がないのであれば,インフルエンザ(図1)に罹患しても重症化する心配のない健康成人はワクチンを接種しないで,発病したときにノイラミニダーゼ阻害薬(neuraminidase inhibitor)で治療すればよいことになる。さらに,院内感染予防を目的とした職員のワクチン接種の意義も消失する。



    わが国においては,インフルエンザワクチンの発病防止効果が明確に理解されないまま広く接種が勧奨され,ワクチンへの不信感につながっている。本稿では最近,欧米でスタンダードとなったワクチン効果判定法を解説し,わが国の現行ワクチンの発病防止効果を紹介する。

    2. 従来のワクチン効果判定法

    ワクチン効果は従来,「ワクチン接種群」と非接種の「コントロール群」にわけて,インフルエンザ流行期間に両群の中でインフルエンザに罹患した比率を比較して発病防止効果を解析していた。ワクチンに効果があれば「ワクチン接種群」でのインフルエンザ罹患率は低くなる。インフルエンザ罹患の判定には,インフルエンザ様疾患を発症した際のウイルス培養検査や抗原検査が必要となる。しかしながら,数カ月の長期にわたり,個々人のインフルエンザ感染の有無を正確に判定するのは困難であった。

    そうした中で上記のような方法により解析され,有力な医学誌に発表されたワクチン効果論文をもとに,健康成人における発病防止効果は70~90%,高齢者(60歳以上)においては58%と報告されてきた1)。小児(7~14歳)においては,抗原変異があったA香港型(H3N2)インフルエンザの流行下においても78.1%と高い効果があるとされた2)。以前はこのようなデータをもとにワクチン接種が勧奨されてきた。

    ところが,A型のH1N1pdm09,H3N2,B型など,その年の流行ウイルスによりワクチンの発病防止効果は異なり,さらにその流行ウイルスに変異が起きれば,ワクチン効果は大幅に低下する。また,患者の年齢や基礎疾患の有無によっても効果が変動し,ワクチン製品自体も以前とは異なるため,過去の論文データを見ても有益な情報にはならない。

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