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(3)医療従事者と予防接種 [特集:今こそ考える成人に必要なワクチン]

No.4771 (2015年10月03日発行) P.33

城 青衣 (がん・感染症センター都立駒込病院小児科医長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-10

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  • 医療従事者は感染症に曝露される危険が高く,B型肝炎,インフルエンザ,麻疹,風疹,ムンプス,水痘などついて,ワクチンによる感染防御が求められる

    近年,日本環境感染学会より医療従事者へのワクチンガイドラインが発表され,今後の医療機関におけるワクチンプログラムの普及,標準化に寄与するものと思われる

    海外では抗原成分が調整された成人用ジフテリア・破傷風・百日咳混合(Tdap)ワクチンが使用されており,医療従事者も対象となっている。国内においても,成人への百日咳への免疫の付与を目的としたワクチンの検討が望まれる

    1. B型肝炎:追加接種の必要性の有無

    1 病院感染のリスク

    B型肝炎ウイルス(HBV)は感染力が強く,HBe抗原陽性の血液による針刺し事故が発生した場合,感染率は約30%に達する。この感染率は,C型肝炎ウイルス(HCV)3%,HIV 0.3%と比べてきわめて高い。血液のみならず,唾液,涙液などの体液もHBVを含むことから,患者の咬傷による病院職員の感染も報告されている。汚染した医療器具,病棟や検査室の物品など,環境からの感染例も報告されている。B型肝炎感染者の約1%は劇症肝炎を発症し,その予後は依然として不良である。感染者の10%はキャリアとなるが,近年国内で流行しているgenotype Aによる感染では,成人においても慢性肝炎へ移行する可能性がより高い。
    医療従事者が感染源となり,患者がB型肝炎に感染した例も報告されている。特にHBV量が多い,あるいはHBe抗原陽性である医療従事者が侵襲性の高い手術を行った場合にそのリスクが高い。米国のガイドラインでは,慢性B型肝炎に罹患している外科医が侵襲的な治療(腹腔内,心臓・呼吸器,整形外科,修復を要する外傷,子宮摘出,口腔・顎顔面における手術・医学的処置)を行う際は,自身のHBVが適切な医学的評価および治療がなされ,HBV量がコントロールされていることが求められる1)

    2 ワクチンの実際

    前述のように,医療従事者のHBV感染症の危険性は一般人と比較してきわめて高いことから,B型肝炎ワクチン接種が強く推奨されている。
    国産のB型肝炎ワクチンは,ビームゲン1397904493(化血研),ヘプタバックス1397904493―Ⅱ(MSD)が生産されている。1シリーズは,0,1カ月,6カ月の3回接種である。3回のワクチン接種により,十分な抗体産生が得られない場合には,米国では,もう1シリーズ(3回)のワクチン接種を推奨している。1シリーズのワクチン接種によって,十分な抗体価が得られなかった場合,使用する製剤や接種方法の変更などが考えられる。使用する製剤の変更は国産ワクチン以外に,海外産ワクチンを使用する方法がある。海外産B型肝炎ワクチンEngerix-B(GSK),海外産A型肝炎B型肝炎混合ワクチンTwinrix1397904493 (GSK)などである。Twinrixは海外産B型肝炎ワクチンよりも高い抗体価が得られるとの報告がみられる2)。ただし,海外産ワクチンは一般に普及している状況ではなく,かつ接種後にみられた有害事象に国内法に基づいた補償が得られない点について,説明および同意が求められる。
    接種方法の変更については,国産B型肝炎ワクチンでは筋肉内接種も認められており,これが試される場合がある。国内においてB型肝炎ワクチンを皮下接種と筋肉内接種で比較した検討では,抗体陽性率は同等であったが,筋肉内接種群において高い抗体価を示す傾向があることが示されている3)。また,抗原提示細胞である樹状細胞の密度が高い皮内へ接種し,有効性が認められたとの報告4)があるが,この接種法は国内では未承認である点に注意する。
    医療従事者はワクチン接種後にHBs抗体価を測定し,ワクチンへの反応性を確認することが推奨されており,この結果により,曝露前および曝露後の対応が異なってくる。B型肝炎ワクチン3回接種後のHBs抗体が10mIU/mL以上に上昇した者は,5~10年後に約半数で10mIU/mL未満となり,これに対する追加接種について議論があった。近年,日本環境感染学会が医療従事者へのB型肝炎ワクチンの追加接種を必要としないとの見解を示している。以前にHBs抗体の有意な上昇を認めた者では,実際にHBVが体内に入った場合,速やかに抗体産生される(既往反応)ことから,肝炎の発症を阻止することが可能とされる5)。しかし,HIV感染症,血液透析,幹細胞移植などの基礎疾患を有する場合には既往反応は期待できないとされている。
    医療従事者の曝露後の対応であるが,B型肝炎ワクチンを接種後のHBs抗体が10mIU/mL以上ならば,先に述べた既往反応が期待できることから,追加のB型肝炎ワクチンおよび抗HBsヒト免疫グロブリン(human anti-HBs immunoglobulin:HBIG)投与の必要はないとされる。
    ワクチン未接種者は,HBs抗体および抗原が陰性であることを確認して,HBIGの投与とB型肝炎ワクチンの接種を開始する。
    3回接種で有意な抗体産生が認められなかった者が曝露された場合は,再度3回のB型肝炎ワクチン接種とHBIGの投与を行う。
    曝露前に2シリーズのワクチン接種完了後にも有意な抗体産生が得られなかった者で曝露があった場合には,1カ月間隔で2回のHBIGの投与が推奨される。

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