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真実はゴミ箱の中のティッシュにある [プラタナス]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.3

笠原 敬 (奈良医科大学感染症センター准教授)

登録日: 2016-12-28

最終更新日: 2016-12-28

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  • 感染症をやろうと心に決めて間もない、ある当直の夜にその患者はやってきた。数日前からの喀痰と咳嗽、そして発熱。診断は市中肺炎だった。患者は入院となり、私は患者にシャーレを渡し、喀痰が出たらそのシャーレに入れるよう指示した。静注用抗菌薬を処方し、翌朝早くに患者の元に行くと、シャーレの中には見るからに膿性の喀痰が入っていた。

    膿性の検体を見ると、心を躍らせるのが感染症医というものである。私は喜び勇んでその検体のグラム染色を行ったが、顕微鏡に映ったのは多数の好中球のみであった(図1)。グラム染色で菌が見えない…これはもしやウイルス性肺炎?いやマイコプラズマ?はたまた結核か?ベッドサイドに戻り、患者にいつ喀痰を取ったか聞くと、早朝だという。抗菌薬を始めたのは昨晩、つまり1回だけ抗菌薬が入ってしまった後の喀痰だったというわけだ。後悔したが、後の祭り。悲嘆に暮れて頭を垂れた私の視線に入ったものは、大量のティッシュが捨てられたゴミ箱であった。もしかしたら、ゴミ箱の底のほうには入院直後の喀痰が包まれたティッシュがあるかもしれない!

    図1

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