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実臨床における腹診について

No.5120 (2022年06月11日発行) P.51

新井 信 (東海大学医学部専門診療学系漢方医学教授)

矢久保修嗣 (明治薬科大学臨床漢方研究室教授)

登録日: 2022-06-10

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  • 日本漢方の特徴として,腹診を重視することが挙げられますが,薬剤師の先生方は,望診,聞診,問診だけで,切診をせずに適切な処方を選択されています。
    実際の臨床で,先生は腹診をどの程度重視されているのでしょうか。また,腹診だけにしたがって処方を決定することがあるなら,どのようなケースでしょうか。
    漢方臨床のエキスパートであり,今は薬学部教授として薬学生に漢方を教えていらっしゃる明治薬科大学・矢久保修嗣先生にご回答をお願いします。

    【質問者】

    新井 信 東海大学医学部専門診療学系漢方医学教授


    【回答】

    腹診で胸脇苦満がみられるときは,精神的なストレスや不安の存在が推測され,柴胡剤といわれる柴胡含有方剤の治療適応です。気管支喘息のため呼吸器科に通院中の40歳代男性の患者さんは,会社の上司が変わってから呼吸困難が出現しました。検査では気道狭窄は増悪がなく,同科より半夏厚朴湯が処方されました。この内服でも症状の改善がないため,筆者の外来に紹介されました。腹診では明らかな胸脇苦満の所見があり,柴胡剤の適応と考え,柴朴湯に変更したところ症状の改善が得られました。このような症例は腹診所見が,漢方方剤の決定に有用であった症例です。

    一方,以下のような症例も経験しています。数年間続く慢性的なめまいの30歳代女性です。耳鼻科より内服薬を処方されていましたが症状に改善がなく,「現代医学的にはもうこれ以上の治療法がない」と言われたことから,「医師から見捨てられたような気がする」と漢方診療を希望してきました。

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