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脳膿瘍[私の治療]

No.5100 (2022年01月22日発行) P.43

前原健寿 (東京医科歯科大学脳神経外科教授)

登録日: 2022-01-22

最終更新日: 2022-01-18

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  • 脳膿瘍は,脳の隣接部からの直接浸潤あるいは遠隔臓器から血行性に起炎菌が侵入し,脳内に膿が蓄積した状態である。限局した範囲の脳実質炎に始まり,約2~3週間で被膜を形成する。

    ▶診断のポイント

    頭痛,発熱,局所神経症状に加え,髄膜刺激症状,頭蓋内圧亢進症状等の臨床症状にも配慮し,採血で感染徴候を確認する。診断には造影MRIが最も有用である。膿瘍穿刺は,診断のみならず治療にも重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    診断・治療の3本柱は,画像診断,抗菌薬,外科治療である。

    MRI,CTともに,被膜形成後は周囲に浮腫を伴うリング状の占拠性病変となり,脳腫瘍との鑑別が必要である。T1強調像で被膜が軽度高信号,実質部が低信号,T2強調像で被膜が低信号,実質部が高信号となる。膿瘍は粘稠度が高いため,拡散強調画像で高信号,ADC(apparent diffusion coefficient)は低信号となることが多い。

    抗菌薬は,できるだけ早期に髄膜炎治療に準じた内容で開始する。起炎菌不明の場合には,広域,特に嫌気性菌をカバーする抗菌薬で髄液移行のよい薬剤を用いる。続いて培養および感受性試験の結果に応じて変更する。ただし,既に存在している感染源から類推して抗菌薬を決定する場合も多い。抗菌薬を追加する場合も,原則として投与量は減量せずに併用する。抗菌薬は6~8週間静脈注射で行い,画像所見で膿瘍の消失あるいは著明な縮小をもって終了とする。

    外科治療の目的は,起炎菌の同定と膿瘍の縮小にある。手術は膿瘍穿刺と排膿が基本で,定位的手術または小開頭で行われる。1cm以上の大きさがあれば定位的手術が可能である1)。外科的治療の有効性に対するエビデンスは確立していないが,2cm以上であれば積極的に手術を考慮する。排膿前の抗菌薬投与は培養感度を下げるが,早期の手術ができない場合には抗菌薬投与を先行させる。大きな膿瘍で頭蓋内圧亢進症状が強い場合,抗菌薬療法後に膿瘍が増大した場合は,速やかな外科治療が必要である。

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