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解離症/解離性障害[私の治療]

No.5098 (2022年01月08日発行) P.44

西松能子 (立正大学心理学部教授)

登録日: 2022-01-05

最終更新日: 2021-12-28

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  • 解離症/解離性障害は,意識,記憶,同一性,情動,知覚,身体表象,運動制御,行動の正常な統合における破綻・不連続である。しばしば心的外傷〔心因,トラウマ(以下,外傷)〕の後に生じる。解離症/解離性障害は,いずれの下位分類においても共通して健忘を認める。記憶や意識の障害を呈する解離と運動性の障害を示す転換(解離性運動障害)に分類される。

    ▶診断のポイント

    自伝的情報の想起困難を示すことが要件である。限局性,選択性,全般性の別はあるが,器質的でない健忘が精神的および身体的な解離(転換)に共通する。解離障壁(事象の健忘の程度)には高低があり,ぼんやりと状況を想起できる場合もあるので注意して診断する。解離症状が前景に出ており,外傷を伴っている場合もある。初診段階では,本人の苦痛は日常生活上の不都合な健忘であり,外傷的体験について本人自身が健忘していることがしばしばある。この点に留意して診断を進めていく必要がある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    解離症/解離性障害は重症度(解離障壁の高低や病態)に大きな差があり,重症度によって適応とされる治療が異なる(表)1)。いずれにおいても保護的環境の構築〔抱える環境(holding environment)〕が共通して必須である。多くは保護的環境の構築により,数カ月以内に治療終結となる。特に軽症群は安心できる保護的環境下で数日以内に回復する。難治例においては,心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD),発達障害あるいはパーソナリティ障害の合併,解離症状を伴った統合失調症や感情障害などとの鑑別を要する。いずれの場合も解離という現症への治療的取り組みは共通している。したがって,診断面接における診立てが何より重要である。


    まず診立て,次に保護的環境を整備し,さらに薬物療法で十分な休息を取らせ,安定を取り戻すことが必須である。この時点で改善傾向を示していれば,数週間,経過を観察する。改善しない場合はさらに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitors:SNRI)を処方する。なお,不安が強い場合は,抗不安薬を投与する場合がある2)。解離症状消失後は,きっかけとなった出来事(トラウマ,心因)への認知の修正が再発防止の点で重要である3)

    外傷について健忘し,その存在を自覚しない場合,治療が進んでいく中で健忘していた外傷に気づくことがある。治療の進行に伴い,治療当初にはなかった解離が現れたり,解離の悪化が認められ,初めて外傷の存在が疑われる場合がある。外傷性解離においては,特に虐待などの幼少時期からの持続的外傷による複雑性PTSD(ICD-11で概念化された診断名)では,外傷自体を健忘していることがしばしばある。治療は外傷的出来事に近づき,気づき,処理していく過程であるが,接近に伴い臨床症状が一時的に悪化する。また,詳細に症状を探索し,外傷を確認していく過程で外傷がさらに出現したり,臨床症状が重篤化したりすることや,外傷的出来事に近づくことを拒否する場合がある。その場合は当初に戻り,安全感,「抱える環境」を提供する。「安全な場」のイメージを繰り返し共有し,安全を保証し,薬物療法を併用していく。

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