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脊髄血管障害[私の治療]

No.5092 (2021年11月27日発行) P.41

安藤哲朗 (亀田メディカルセンター脳神経内科部長)

登録日: 2021-11-29

最終更新日: 2021-11-22

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  • 脊髄血管障害(vascular disorders of the spinal cord)の頻度は脳血管障害の2%以下と稀であるが,急性の脊髄障害では可能性を想起する必要がある。急性脊髄障害の診断にはMRIが必須で,転移性脊椎腫瘍などの圧迫性疾患を鑑別し,出血性疾患を鑑別した後に脊髄梗塞の可能性を検討する。脊髄血管障害は突然発症の脊髄症として発症することが多いが,脊髄動静脈瘻では亜急性から慢性進行性の経過をとることが多い。

    ▶診断のポイント

    【脊髄梗塞】

    脊髄の前側が障害される前脊髄動脈症候群では,背部痛を伴って四肢麻痺もしくは対麻痺が突然発症する。早期からの膀胱直腸障害,解離性感覚障害(触覚が保たれ温痛覚が障害される)が特徴である1)。後脊髄動脈症候群は,深部感覚障害を呈する。いずれも一側性の場合と両側性の場合とがある。

    MRIでは,T2強調画像で高信号と軽度の脊髄腫脹を認めることがあるが,異状所見を認めない場合もある。

    【脊髄出血】

    脊髄内出血では,突然発症の脊髄症を起こす。疼痛を伴って強い対麻痺または四肢麻痺を起こすことが多いが,海綿状血管腫からの出血の場合は,比較的軽い症状の場合もある。MRIでは急性期には脊髄が腫大し,T2強調画像では低信号と高信号が混在する。数日後にはT1強調画像で高信号を示すようになる。gradient echo法によるT2強調画像で低信号を認めることが診断に有用である。

    頸椎部の硬膜外出血では,片麻痺を呈して脳梗塞と症候が類似する場合がある。

    【脊髄動静脈瘻】

    多くは脊髄硬膜動静脈瘻によるもので,下部胸髄から腰仙髄にかけての病変が多いが,10%程度は頸髄に起こる。

    静脈うっ滞による脊髄障害で両下肢のしびれ,運動麻痺,排尿障害が起こり,亜急性から慢性に進行する。初期には,歩行,運動,飲酒などによって症状が悪化して,休息により軽快する症状変動を認めることが少なくない2)

    MRIでは脊髄の上下に長い腫脹と脊髄の中心部を中心としたT2高信号を認める。脊髄硬膜動静脈瘻から動脈の高い圧力により拡張蛇行した異常血管が,くも膜下腔のflow voidとしてみられるか造影されることが診断に重要で,疑う場合は脊髄血管造影が必要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    いずれの病態でも,MRI画像で脊髄の圧迫所見があれば,緊急の除圧術を考慮する。

    脊髄血管障害を起こした基礎疾患を見きわめて,その治療をすることが重要である。動脈性脊髄梗塞の場合は大動脈解離や椎骨動脈解離,静脈性脊髄梗塞の場合は動静脈瘻,脊髄出血の場合は血液凝固能異常,抗凝固薬の服用,脊髄血管奇形,脊髄腫瘍が基礎疾患として重要である。

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