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成人成長ホルモン分泌不全症[私の治療]

No.5088 (2021年10月30日発行) P.49

高橋 裕 (奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学講座教授)

榑松由佳子 ( 奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学講座)

登録日: 2021-10-30

最終更新日: 2021-10-26

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  • 成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)は,成人期の成長ホルモン(GH)分泌不全により,易疲労感,スタミナ低下,気力低下,集中力低下,うつ状態,性欲低下などの自覚症状および生活の質(QOL)の低下と,皮膚の乾燥と菲薄化,体毛の柔軟化,ウエスト/ヒップ比の増加などの身体所見を認め,体脂肪(内臓脂肪)の増加,除脂肪体重の減少,筋肉量減少,骨塩量減少などの体組成異常,脂質代謝異常,耐糖能異常,脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などを呈し,主に心血管合併症の増加により生命予後が悪化する疾患である。 原因として頭蓋内器質性疾患(下垂体腺腫や頭蓋咽頭腫などの腫瘍性疾患,炎症,自己免疫,肉芽腫,感染,囊胞,血管障害など),手術および放射線治療歴,頭部外傷やくも膜下出血の既往,抗PIT-1抗体症候群,周産期異常(骨盤位分娩,出生時仮死など),遺伝子異常,小児がん経験者,特発性などがある。

    ▶診断のポイント

    成長障害の既往,頭蓋内器質性疾患の合併ないし既往歴・治療歴または周産期異常の既往があり,上述の自覚症状や身体所見を認めた場合に積極的に疑い,GH分泌刺激試験(インスリン負荷,アルギニン負荷,グルカゴン負荷,またはGHRP-2負荷)を行い,2種類以上のGH分泌刺激試験において基準(インスリン,アルギニン,またはグルカゴン負荷での血清GH頂値が3ng/mL以下)を満たした場合,あるいは明らかな器質性疾患があり,GHを含めて複数の下垂体ホルモンの分泌低下がある場合には1種類のGH分泌刺激試験で基準を満たした場合に診断される。なお,GH補充療法の保険適用となる重症AGHDの診断は,GH分泌刺激試験での血清GH頂値が1.8ng/mL以下(GHRP-2負荷では9.0ng/mL以下)で診断される(インスリン負荷試験は虚血性心疾患や痙攣発作を持つ患者では禁忌である)。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    GH治療の目的は,GH分泌不全に起因すると考えられる易疲労感,スタミナ低下,集中力の低下などの自覚症状を含めてQOLを改善し,体脂肪量の増加,除脂肪体重の減少などの体組成異常および血中脂質高値などの代謝障害を是正することである。GH以外の下垂体ホルモンの分泌低下がある場合には,他の欠乏しているホルモンの補充がまず必要である。GH補充療法は自己注射となるので,その必要性や意義を十分説明することが重要である。最近、dailyGH製剤に加えて、週1回投与可能な長時間作用型GH製剤が使用可能になった。

    【注意】

    有害事象としてGHの体液貯留作用に関連する手足の浮腫,手根管症候群,関節痛,筋肉痛などが治療開始時にみられるが,その多くは減量あるいは治療継続中に消失する。治療経過中,定期的に血中インスリン様成長因子1(IGF-1)値を測定し,年齢・性別基準範囲内であることを確認する。

    【禁忌】

    daily GH製剤では,糖尿病患者,悪性腫瘍のある患者や妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とされている。

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