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多発性囊胞腎(常染色体優性多発性囊胞腎)[私の治療]

No.5088 (2021年10月30日発行) P.47

乳原善文 (虎の門病院分院腎センター内科)

登録日: 2021-11-01

最終更新日: 2021-10-26

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  • 多発性囊胞腎は,両側の腎臓に多数の囊胞がみられる遺伝性の疾患で,「常染色体優性遺伝型多発性囊胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease)」が正式な名称とされ,ADPKDと略される。日本透析医学会統計調査委員会による「わが国の慢性透析療法の現況」によると,1988年の調査ではADPKD患者の透析導入年齢が平均55.8歳であった。当時はアダラート®(ニフェジピン)を含む降圧薬が市場に出回り,降圧薬治療が積極的になされはじめた頃であり,この時期に末期腎不全になった患者の多くは降圧薬の恩恵を受けていなかったことが推察される。その後,調査ごとに平均年齢は上がり,2013年の調査では透析導入年齢が平均62.3歳となった。このことは降圧薬の進歩,ACE阻害薬やARBが使えるようになった結果と考えて間違いではなかろう。腎臓内科領域では食塩制限に加えて低蛋白食の有効性が議論されるようになったが,その後のサムスカ®(トルバプタン)の登場は画期的であり, これを機にADPKD患者の内科的診療に多くの腎臓内科医が目を向けるようになった。

    ▶診断のポイント

    両側の腎臓に均等に小囊胞形成がみられる。肝臓にも同様の囊胞形成を伴うことが多い。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    自宅での血圧測定で高血圧(140/90mmHg以上)を認めるようになった時点が定期通院の開始時期である。高血圧がない場合には,囊胞腎である可能性が低いどころか,囊胞腎であっても腎症の進展が乏しいことが多いからである。

    治療はサムスカ®の投与が基本である。高血圧を合併している場合には降圧薬を適宜使用して血圧管理を行う。これまで当院に来院したADPKD患者3000人以上のうち,250人近い症例に対してサムスカ®が試みられた。その効果は一定ではなく,むしろ腎不全の進行が早くなり,早期に投与を取りやめた患者のレスキューを筆者に委ねられた症例も多くあった。悪化原因を検討した結果,次のことがわかった。

    ①水分を多くとることを指導された結果,食塩や糖分が多く含まれる水分を摂取する傾向が強くなる(真水のみをひたすら多量に摂取することは困難である)。結果として筆者の外来を訪れたときには下腿浮腫が顕著で,サムスカ®投与を開始してから10~20kgの体重増加に陥っていた症例も稀ではなかった。そのような患者に対しては,徹底したダイエットにより標準体重に戻すとともに,適切な食塩制限と飲水指導を行うことで浮腫をとり,浮腫をきたさない管理を行うことで2~3L/日の飲水量で腎機能低下の進行が落ち着くことも経験した。このことから,腎臓は肥満に弱く,体液過剰に弱く,肥満と浮腫が持続することで,容易に腎不全悪化につながることが判明した。塩分(NaCl)に付随する水分は排泄されにくく体液貯留につながり,サムスカ®による腎臓からの排泄は困難であることも経験した。

    ②ビール好きには注意が必要。サムスカ®により脱水状態になるため,ビールはことのほかおいしく,ついつい摂取量が増えるが,ビールに含まれている糖分により体重は増えて,もともと出っ張っていたお腹はさらに膨らむ。気づくとeGFRは確実に落ち,体重は5~10kg増える。

    以上から,失敗しないサムスカ®治療のコツは,体重測定は毎日行うこと,標準体重に戻すこと,下腿浮腫の有無を毎日確認すること,食塩制限(6g/日未満)を守ること,多くの降圧薬を服用している患者においてはサムスカ®投与で血圧低下が起こることがあるので降圧薬の調整も必要,である。

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